新大学入学テストの中止と再検討を

大学入試改革で2020年度から、これまでの「センター試験」に替わって、「大学入学共通テスト」が始まります。この大学入学共通テストが大きな社会問題となっています。

大学入学共通テストでは、英語民間試験の実施や、国語と数学での記述式問題の導入などが「改革」の目玉となっています。この「改革」については、多くの専門家から疑問や批判が出されてきました。とくに英語民間試験の導入については、さまざまな疑問点が解消されていないまま、文科省は実施しようとしています。

11月1日から共通IDの登録が始まるという直前になって、萩生田光一文科相が、英語民間試験について、「身の丈に合わせてがんばって」とテレビ番組で発言したことから、謝罪に追い込まれました。教育格差を容認するような教育行政トップの発言に、専門家や教員、高校生から憤りの声が上がり、野党側は萩生田文科相の辞任と英語民間試験の延期を求めています。

mitakashiritai20191031.jpg『朝日新聞』2019年10月29日朝刊

そもそも英語民間試験にについては様々な問題点が指摘されていました。

英語民間試験は、英検やGTEC、TOEFLなど7種類の目的の異なる試験を活用するとしていますが、違う試験の成績を公平に比較・評価できるのかという根源的な疑問が専門家から出されています。異なる民間試験の成績を比べるために、「各資格・検定試験とCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)との対照表」を大学センターは作成していますが、各テストのスコアとCEFRとの対応づけは、試験実施団体が独自に行なったもので、文部科学省や第三者機関による検証は行なわれていません。この対照表の客観性に疑問が出されているのでは、入試自体の正当性を失わせるものとなっています。しかも7種類の試験によって有利不利が生まれれば、受験生はどの試験を選ぶかで右往左往することを強いられ、有利とされる試験に受験が集中することになります。

各英語民間試験の公平さや公正さにも不安が指摘されています。どの試験実施団体も、多くの受験生が参加する試験を、きちんと管理し公正に採点することが求められます。ところが文科省は、試験実施団体に丸投げで、本当に正確で公平な採点を行なえるとはとても思えません。

スピーキングのテストは録音機械を使用し、十分なスペースの会場を確保する必要があります。余計な費用をかけたくない試験実施団体は、受験生数が決まらないと試験会場を確保できないため、試験日や試験会場の発表ができないでいることも、大きな問題になっています。採点の方式や試験結果の周知時期、事故が起こった場合の対応などについても、高校側の不安を払拭するような説明がなされていないことも問題です。

また、英語民間試験は経済的負担も重くなります。英検2級やGTECは7000円、ケンブリッジ英検は2万6000円、TOEFLは235ドル=約2万5000円かかり、これを2回受験することになります。それに加えて、試験会場数が限られることから、かなりの数の受験生が高額の交通費を支払うことになります。離島や遠隔地の高校生の場合には1泊2日ないし2泊3日となり、宿泊費も必要となります。地域格差や経済格差が深刻化し「試験の公平」原則を崩すこととなります。これでは、試験慣れのために何度も受験できる都市部の裕福な家庭層の高校生は有利になり、経済的に厳しい家庭層の高校生は受験すら出来なくなります。

2021年1月に実施予定の「大学入学共通テスト」についても、数多くの疑問点が指摘されています。
まず、数10万人もの規模になる受験生の国語や数学の記述式問題の採点を、短期間で公平に行なうことができるのかという問題があります。8月に、この記述式問題の採点を「学力評価研究機構」(ベネッセのグループ会社)が行なうことが発表されました。民間企業が大学入学共通テストの受験生データ全体を扱うこと自体に、さまざまな疑念が出されています。採点スタッフの人数は1万人程度必要とされ、文科省は大学生アルバイトも容認しているといわれ、正確かつ公平な採点の実施、情報漏えいのリスク回避などに大きな疑問をかかえたままです。
記述式問題は、選択式問題よりも試験実施後に行なう自己採点を正確に行なうことが難しいという問題もあります。プレテストでは国語の自己採点と採点結果の一致率が7割程度にとどまりました。数学の記述式問題も合わせれば、自己採点の困難はさらに増すこととなります。実際の得点と自己採点の不一致が大きくなれば、受験する大学の選択や合否の予測に大きな悪影響を及ぼすことになります。

そして最大の問題は、こうしたさまざまな疑問や問題点の指摘や高校現場の不安に対して、文科省は、はじめから「改革ありき」「スケジュールありき」で事を進め、高校現場や受験生に十分な説明を行なってこなかったことがあげられます。

英語民間試験の実施については、文科省が設置したポータルサイトを見ても、実施日や試験会場の詳細が明らかとなっていない試験が、今日に至っても存在しています。また、9月1日時点では英語民間検定試験の活用について、国公私大の3割弱が「未定」の状態です。

全国高等学校校長協会は9月10日に、英語民間試験について、2021年度以降への延期と制度の見直しを求める要望書を文部科学省に提出ました。9月13日には、共通テストに反対するシンポジウムが東京大学で開かれるまでになっています。

20191031.jpg『朝日新聞』2019年10月29日朝刊


「大学入試改革」のスローガンを最優先し、様々な疑問や問題点が指摘されている入試制度を見切り発車して被害を受けるのは、最初に受験することになる高校2年生をはじめとする受験生です。制度設計の不備が受験生に悪影響を与えることは、絶対に避けなければなりません。
民間英語試験の実施まで5か月と迫った現在、「身の丈」入試である新大学入学共通テストを中止し、これまで出されてきた課題を専門家や市民、教育関係者、受験生などの声を集めながら抜本的に再検討することが求められています。
また、e-ポートフォリオ、民間英語試験のGTEC、そして共通テスト記述問題の採点と、大学入試改革のさまざまな分野でベネッセが関わっています。これではベネッセのための入試改革のような感じです。一民間企業に丸投げしているかのような状態で良いのかも再検討すべきです。

この記事へのコメント