「中教審答申で教師教育はどう変わるか」

日本教師教育学会主催の公開シンポジウム「中教審答申で教師教育はどう変わるか」が12月4日、早稲田大学小野記念講堂で開催され、参加をしてきました。

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2015年12月の中教審答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」をもとに、16年11月には教育公務員特例法、教育職員免許法、独立行政法人教員研修センター法の一部改正が成立し、学校教員の養成・採用・研修をめぐる制度や内容が、根本から改変されようとしています。この中教審答申と法改正がどのような意味を持つものなのか、大学で教員養成に関わっている一人として関心を持ち、シンポジウムに参加をしてきました。

司会 新井保幸さん(淑徳大学)、佐久間亜紀さん(慶應義塾大学)
シンポジスト 松木健一さん(福井大学)、坂井俊樹さん(東京学芸大学)、油布佐和子さん(早稲田大学)、浜田博文さん(筑波大学)

松木さんは、法改正によって、(1)教員研修の指針を文科大臣が策定することになるが、各地域、各大学の自主性・自律性を保障する指針となっているか、各年代ごとの到達目標を羅列するような指針になっていないか、教職生活の生涯にわたる職能成長の見通しをもてるグランドデザインを示しているか、(2)教育委員会と関係大学とで構成する協議会では、指針を参酌しつつ、校長及び教員の職責、経験及び適性に応じてその資質向上を図るための必要な指標や教員研修計画を定めることになっているが、教育委員会が協議会に参加する大学をどのように決めるのか、協議会で各地域、各大学の自主性・自律性が保障されるような自由な議論が保証されるか、人事評価に用いない指標づくりを工夫する必要がある、免許更新講習をどのように取り組んで一元化するのか、教職大学院での単位認定をどのように位置づけるのか、(3)教員養成では、教科専門と教科教育(指導法)とが連携した指導が作れるのか、といった危惧や課題を提示した上で、教師の高度化・専門職化にあっての教職大学院の課題がどこにあるかを提起しました。

油布さんは、中教審答申は、直接的には教育再生実行会議の提言によるものだが、臨教審以降、着々と積み重ねられてきた改革の最終ステージであり、教員の養成・採用・研修のすべてにわたる改革となっているとし、答申への疑問として5点を指摘されました。(1)「学び続ける教師」のstandardの設定は世界的潮流であるが、海外では、いわゆる職業倫理あるいはキーコンピテンシーであるのに対して、日本ではチェックリストへと翻案され、作成にあたっては、海外では研究者・専門職団体等の主体的関与があるのに対し、日本では国がモデルを作成し、教育委員会が中心となること、(2)現場・体験主義ガ強調され、「実践的指導力」が強調されているが、教職大学院に当初期待された〈理論と実践の往還〉は背後に退き、「現場教員の研修」機関になっていること、教師が直面する教育課題に取り組み、その中で学ぶというような発想がないこと、(3)アクティブラーニング、ICTなどの現代的な教育課題や新たな教科・科目への対応について、課題の出現にそって加点的に学ぶことが増えているが、「クリティカルな思考」という発想そのものがないこと、(4)教員「養成は大学」、「採用・研修は教育委員会」というこれまでのあり方が変化し、「連携」にとどまらず、大学へのコントロールが強まっていること、協議会のヘゲモニーを握るのは教育委員会であること、(5)答申の前提は、社会変化のスピードが速まり、グローバル化が進む中で、さまざまな分野で活躍できる人材の育成、そのための教育=「利益のための教育」であるが、答申では経済格差、相対的貧困の増大による生活不安、そのための教育という「デモクラシーのための教育」は触れられておらず、そうした視点が看過されている枠組みの中で「養成・採用・研修」が語られていること。そして、この改革の行方は、国の意図する「質の保証」にかなった人を集めて、労働条件の悪化する「教育現場」に送り出そうとする改革になっており、「教職の魅力」の減退と、教師の質の低下に寄与するのではないか、と指摘しました。

今回の中教審答申と法改正によって、教員「養成・採用・研修」について、国や教育委員会の関与が大きくなり、大学の主体性・自律性が損なわれる改革であることが危惧されています。油布さんの答申への疑問として指摘された点は首肯できるものでした。松木さんは中教審委員として答申に関わった人ですので、油布さんの疑問点に答えるかたちで議論が進むと、より問題点が深まったように思い、そうならなかったのは残念でした。

フロアからは、教員の過重労働、多忙化の中で、改革による教員の質の維持ができるのか、という質問もありましたが、教員の多忙化をなくすためには、国が教員を削減するのではなく、教員を増員し、ゆとりを持たせて、もっと子どもと向き合う時間を作ること、教員を階層化せず教員間の協同、学び合いができる学校空間を作ることが必要だと思っています。油布さんは、「チーム学校」について、響きのいい言葉をみんな都合好くバラ色に想像するが、そうはならないとし、教員が再任用、常勤、非常勤と雇用形態が変わってきており、また、主幹教諭、主任教諭、教諭とピラミッド形になっており、そこにどのような協同ができるのか、限りなく難しいのではないか、と疑問をはさみました。教員が、競争させられ、評価が行われている中で、協同することは難しいといわざるをえません。

教員養成が大きく変わろうとしている中で、シンポジウムでは、学問の自由、大学の裁量、教育の自律性、開放制の教員養成が大事であることが共通していたことが確認されましたが、具体的な制度設計がどのようなものになるのか、注目していく必要があると思っています。

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