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zoom RSS 『若者と労働−「入社」の仕組みから解きほぐす−』を読む

<<   作成日時 : 2013/12/03 11:45   >>

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日本キャリアデザイン学会のメールマガジン『キャリアデザインマガジン』第112号(2013年12月2日発行)に「私が読んだキャリアの一冊」として、濱口桂一郎さん(労働政策研究・研修機構)の『若者と労働−「入社」の仕組みから解きほぐす−』(中公新書クラレ、2013年)を紹介しました。
以下がその全文です。

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著者の濱口桂一郎氏は、長い間労働政策の研究にかかわってきた研究者ですが、本書は今日大きな社会問題となっている若者の労働問題について、日本型雇用システムやそれと密接結びついた教育システムがどのようなものであったのかを詳細に論じたうえで、若者雇用問題とそれに対する政策の推移を概観し、今後に向けた処方箋の提示をしたものです。

最初に、 日本では雇用政策の中心を占めていたのは中高年問題で、2004年までは若者に固有の雇用問題の存在は認識されていなかったことを明らかにしています。
そのうえで、若者雇用問題を根本から議論するためには日本型雇用システムの特徴と、若者の雇用問題が生じる構造的な要因を明らかにする必要があるとし、「ジョブ型社会」に対置される「メンバーシップ型社会」の概念を用いて説明が試みられています。「ジョブ型社会」である欧米諸国や日本以外のアジア諸国では、職務と処遇とが結びつけられ、雇用については欠員補充方式で、「必要なときに、必要な資格、能力、経験のある人を、必要な数だけ」採用する労働社会になっていると説明されています。 それに対して「メンバーシップ型社会」である日本では、新卒定期採用方式で、職業能力ではなく、「人」の潜在能力(人間力)によって新卒者が定期的に採用され、賃金は定期昇給のもとで「仕事」とは無関係に年功的に上昇していく社会として説明されます。
また、日本では戦後、職業安定法や労働基準法などの労働法は欧米諸国と共通のジョブ型の原則で作られているが、現実の労働社会はそれとは異なるメンバーシップ型の原理で構築されているため、日本の裁判所は、様々な労働事件の判決の積み上げる中で、法律と現実の隙間を埋める、判例法理といわれるルールを確立していったことが明らかにされています。 
そしてメンバーシップ型の労働社会に「入社」するための教育システムについては、ジョブ型社会では、新規学卒者が「さしあたっては何も役にも立たない」者にならないように、学校教育制度の中に特定の職業に必要な資格や能力を身につけるための課程が設けられていることが一般的になっているのに対して、日本の場合は、偏差値に象徴される一元的能力主義が学校と社会を貫き、「地頭がいい」人材を提供するのが学校教育となり、特定の職業に必要な資格や能力を身につける職業教育は冷遇され、高校教育、大学教育ともに教育の職業的意義(レリバンス)は極めて低いものになっていると説明しています。
著者は、この日本型雇用システムと日本の教育システムとは、お互いが原因となり結果となりながら、極めて相互補完的なシステムを形作ってきたとし、一言で言えば「教育と職業の密接な無関係」というべきものであったといいます。
1990年代後半以降、「正社員」の縮小と「非正規労働者」の増大が進行し、特に若者の不本意正規雇用は社会問題化し、2000年代に入り日本でも若者雇用政策が始まります。
メンバーシップ型社会では、学卒者は職業能力を問われることがなかったために、中高年層との競争にさらされることなく就職=「入社」することができ、それが利点であったこと、しかし、学卒者の就職難という事態が生じ始めると、学卒時に就職=「入社」できなかった若者は、ジョブ型社会以上の困難に直面し、不安定雇用のもと、体系的な職業能力を身につける機会もないまま年長フリーターとして労働市場に滞留していく状況が生じたこと、また、正社員になれたとしても、労働時間や労働密度、労働負荷が増大し、その一方で「名ばかり正社員」を使いつぶすブラック企業問題も登場してきたことなどを指摘します。
そこで著者は、このような事態を解決する処方箋として、「全員メンバーシップ型」を目指すことも、「全員ジョブ型」を目指すことも、現状の日本では困難があるとし、「漸進戦略としての『ジョブ型正社員』」を提示します。「ジョブ型正社員」とは「日本の正社員のような無限定の責任義務を負うことはなく、職務や勤務場所、労働時間が限定されている無期雇用契約の労働者」と説明されています。「漸進戦略」と前置きされているように、中長期的にはメンバーシップ型正社員をジョブ型にシフトさせていくという目標を持ちつつ、当面は学卒時に不本意非正規労働者として働かざるを得なかった人々から「徐々に拡大発展させていこう」というかたちで、漸進的にシステムを改革していくのが現実的であるとするものです。

ジョブ型正社員は、現在の日本のように、労働条件の劣悪な非正規労働者になりたくなければ、職務も労働時間も勤務場所も無限定なメンバーシップ型の「正社員」になることを受け入れざるを得ないという、どちらにしても劣化した労働条件のもとで働くというあり方についても問い直すものになっています。これを実現させることは多くの困難を伴いますが、著者が言うように、一歩一歩進めていくしかないように思います。

本書は、現在、日本社会で大きな問題となっている「若者と労働」の問題について、欧米諸国での問題と対比しつつ、その問題点と解決策を論じた書物として、若年労働政策を論じる場合には避けて通れないものとなっています。ぜひ多くの人に読んでもらいたい思っています。

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