朝日新聞・河合塾「ひらく 日本の大学」調査

大学への進学率が5割を超えて、えり好みさえしなければ、ほぼ入学できる時代となった大学の現状を具体的に明らかにすることを目的に実施された朝日新聞と河合塾による「ひらく 日本の大学」調査の概要が、『朝日新聞』7月13日付朝刊に掲載されています。

紙面では、調査項目のうち、入試データ公表、入学前教育、クラス担任制、退学、退学防止策、就職指導、重視する機能、の7項目について、特徴的な取り組みをしている大学が紹介されています。

私立大の3校に1校が一般入試で入学する学生が3割に満たないことが明らかになり、推薦やAO入試で入学する学生が急速に増えているなか、学力の維持のため、入学前教育に力を入れています。入学前教育の目的は「大学で必要な基礎知識の習得」(45%)、「高校までの学習の確認・向上」(39%)が多く、合わせて8割以上が基礎的な学力を目的としています。しかし、その実態は、大学ではノウハウがなく、予備校の教材を使用している大学が目立ち、入学してくる学生の実態に合わせた自前の教材で実施している大学はごくわずかであることが知られます。それで本当に効果が上がるのか、疑問と言わざるを得ない実態が明らかにされています。

厳しい就職情勢が続く中、今年度から大学では、キャリアガイダンス(社会的・職業的自立に関する指導)の実施が義務づけられるようになりました。各大学が手厚い就職支援していることは、読売新聞の「大学の実力」調査でも明らかにされていますが、電話対応や敬語の使い方、訪問・応接などのマナーの授業、筆記試験対策や模擬授業など、就職活動に直結した授業を設ける大学が多くなっています。

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大妻女子大学(asahi.com7月13日付より)

社会的・職業的自立に関する教育は、学生が、企業に就職できるようにするための指導をすることであるかのように、就活に直結した多彩な取り組みが行われています。しかし、キャリア教育は、大学卒業後の社会で学生が自立的に生きていけるように、つぎのような内容のカリキュラムを組むことが必要だと考えています。
・自己理解(自己分析)を深めること、職業や卒業後の具体的な進路について調査研究すること、それをふまえたキャリアプランを描いてみること。
・人が人間らしく行き、働くとはどういうことについて本質的な理解を深めること、現代社会における人間のさまざまな働き方、産業構造や職業、労働の実態について、科学的な認識を獲得すること。
・専門教育を通して職業的自立を果たしていくために、専門性や専門的な知識や技術を身につけること。
・自らの専門的力量を発揮し、充実した働き方ができるように、職場そのものを改善していけるような力量を身につけること。
・市民性を身につけ、主権者として振る舞うことのできる力量を形成すること。

中教審は2005年の答申「我が国の高等教育の将来像」で、「ユニバーサル段階の高等教育は学習者の多様な需要に対応するため、各学校種ごとの個性・特色を一層明確にしなければならない」とし、大学の機能を「 ①世界的研究・教育拠点、 ②高度専門職業人育成、③幅広い職業人育成、 ④総合的教養教育、 ⑤特定の専門的分野(芸術、体育等)の教育研究、 ⑥地域の生涯学習機会の拠点、 ⑦社会貢献機能(地域貢献、産官学連携等)」の7つの機能に分け、「その比重の置き方が各大学の個性・特色となり、各大学は緩やかに機能別に分化していくものと考えられる」としています。
この機能分化を念頭に、調査では、各大学がどの機能に比重を置いているかを、計100%で自己診断して回答を求めています。各大学が示した回答のうち、それぞれ比重の高い3つの機能を集計したところ、社会貢献(21%)、幅広い職業人育成(19%)、高度専門職業人育成(18%)の順で、世界的研究・教育拠点は(7%)で最下位でした。
社会貢献機能は、国公私立別、規模別でもまんべんなく2割前後と安定し、世界的研究・教育拠点機能は1学年の定員が3000人以上の大学が16%で最も高く、地域の生涯学習機会の拠点機能は小規模大学ほど比重の重点の置き方が高い、という顕著な違いがでたということです。

すでに日本の大学は多様になっており、1つの基準ではくくれなくなっています。入学する学生も多様化し、リメディアル教育(入学前教育)、初年次教育、学生支援、就職支援など、すでにさまざまな取り組みが行われています。

金子元久さん(国立大学財務・経営センター)は今回の調査結果は、知名度の低い小規模大学では、一般に入試倍率が低く、また就職率が低いが、しかし同時に、初年次教育や学生支援、就職支援などでユニークな取り組みをしていること、他方で、知名度・選抜制の高い大学では、卒業率や就職率は相対的に高いものの、就職未定のまま卒業する学生も少なくなく、大学での学習支援、就職支援は必ずしも大きく進んでいないことを指摘し、「いわゆるエリート大学が、大学教育改革をリードしているのではないところに日本的特質がある」と述べています。

この調査結果が、どのようなかたちで公表されるのかは明らかにされていませんが、読売新聞の「大学の実力」調査のように、個別大学ごとに公表されることを期待します。
調査結果の公表は、高校生や保護者が大学を選択する際に、知名度や偏差値だけではなく、各大学が具体的にどのように学生を育てる取り組みをしているのかに注目して選択することに役立つと考えるからです。

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