公立学校への一年単位の変形労働時間制度導入を考える緊急集会

日本労働弁護団が主催する「公立学校への一年単位の変形労働時間制度導入を考える緊急集会」が11月24日、東京の連合会館で開かれ、参加してきました。

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この緊急集会は、公立学校の教職員に変形労働時間制の導入を盛り込んだ給特法改正案が衆議院を通過したことから、その導入阻止に向けて日本労働弁護団が開いたものです。会場は130人以上の人たちが集まり、用意した資料が足りなくなるほどでした。

集会では、水野秀樹さん(日本労働弁護団幹事長)が開会の挨拶の中で、この法案は害があってメリットがない、労基法では変形労働時間制の導入には労使協定で合意が必要だが、条例で教員に押しつけることができるもので問題があるとし、この集会で問題点を共有することを訴えました。

基調報告は、嶋崎量さん(日本労働弁護団常任幹事)が行い、給特法では4%の調整額で超勤4項目以外の残業は認められていないが、あとは実態は働かせ放題になっている。部活動指導も自主的な活動とされ、労働と位置づけられていない。労働法の世界で部活指導が労働ではないとは、不可解きわまりない。部活指導で過労に陥っている現状を放置したまま法制度を改正しようとすることは認められない。文科省のガイドラインで時間を把握して労働時間の上限の枠をはめる、それによって、業務量の見直し、教員を増やすことの対策に向き合える。休日のまとめ取りのために変形労働時間制を、と言われているが、これはごまかしに過ぎない。岐阜市では16日間の閉庁日を設けており、法律を変えなくてもできている。連合総研の報告書では、調整休暇の制度を作ろうと提言している。夏休みに特別休暇を作ることは法改正をしなくてもできる、と指摘しました。

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報告と訴えでは、内田良さん(名古屋大学准教授)、斉藤ひでみさん(現職教員)、大学生(Teacher Aide東京支部)、檀原毅也さん(全日本教職員組合書記長)、和田さん(都労連書記長)が登壇しました。

内田さんはまず、国は1年を通した教員の労働時間の実態調査のデータを持っていない、エビデンスなき法改正をしようとしていると指摘しました。その上で、中教審特別部会で示された東京都のグラフのデータでは、8月は5.56時間で帰れるかのように示されているが、年休、夏季休暇は0時間として加算されているカラクリがある。石川県やその他の県のデータでは8月でも残業しており、教員にはそもそも閑散期というものがない。エビデンスから見て変形労働時間制を入れる要件はない。岐阜市の取り組みは変形労働時間制導入のための事例のように語られたが、変形労働時間制を入れずに閉庁日を設けており、早川教育長は変形労働時間制を導入しなくても夏の休暇は取れることを明言していた。これまで教員は辛うじて夏休みに年休を取ってきたが、それが変形労働時間制になると、年休がさらに取れなくなり、変形労働時間制の導入は改悪だと思う、と述べました。

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斉藤さんは、給特法を抜本的に改正してください、変形労働時間制を撤回してください、の2つの署名活動を行ってきたことに触れた上で、変形労働時間制については、4月、5月の疲れを8月に取れというものだと言われている。それも無理だが、9月、10月の疲れも8月に癒やせという扱いになっている。8時間の定時で仕事が終わらない中で、定時が9時間に延びると、仕事がさらに増えることは、現場では容易に想像できる。これまでは曲がりなりにも8時間労働の原則でやってきたが、それが崩れると、管理職が恣意的に勤務時間を設定できるようになる。国の想定を超えることが自治体で起きたとき、条例で決めた自治体が責任を持ってやることになるので、文科省は何もしない。自治体と現場でも、現場に責任が丸投げされる、と述べました。そして、仮に変形労働時間制が導入されたとしても、各県の条例に入れさせない取り組みが必要だ、と訴えました。

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教員志望の学生アキレスさんは、給特法を学生たちに正しく伝える活動をしていたところへ給特法改正案が出た。学生たちもどうしたらいいか解らなく混乱している。なぜ現場の声を無視するのか。学生はすでに教職の魅力は解っているが、労働環境が良ければいいが、マイナスの部分が多いから民間を選んでいる。私も教職に就くか迷っている。今の労働環境ではベストな授業を子どもたちに提供できない、と語りました。また、教員採用試験に合格している女子学生は、今でも労働環境に不安があるのに、変形労働時間制が導入されたらさらに不安になる、と語りました。

檀原さんはまず、長く働き続けられる職場は、熊沢誠が、ゆとりがある、仲間がいる、自己決定権があるという3つの条件をあげているが、昔はそれが学校の魅力だった。それが崩されてきて、変形労働時間制は教員として働くことを断念せざるを得ない状況にきている、と述べました。その上で、中教審働き方改革特別部会では、前半で教員の業務の仕分けが行われが、必ずしも教員が担わなくて良い業務については民間を導入しようという意図があり、公教育が朽ちかけていく危険性がある。中教審が議論を避けてきた問題の1つは、教育予算。教育予算は増やさない。もう1つは教員の専門性を高めるための自主研修の充実。これも議論なし。新任教員の声として、授業準備が出来ない、「先生、聞いて」と言われるのが恐ろしい、と思ってしまう現場になっている。行き届いた教育ができる条件整備をすることが国の役割であり、教育予算を増やす、教員を増やすことこそが必要だ。教員は平日の長時間労働の削減を望んでいる。しかし、変形労働時間制はその望みに応えるものではない。見せかけの残業時間が減るだけだ。今も夏休みを取る仕組みはあるが、忙しくて取れない。その現場を変えずに変形労働時間制を入れたところで、仕事量を変えなければ休みが取れるようにはならない。今回の変形労働時間制の導入は労基法の改悪であり、一度導入されるとそれが突破口にされる。全教は変形労働時間制の導入には反対だ、と訴えました。

和田さんは、都教委が実態調査をしたが、過労死相当の残業時間の者の割合が高く、深刻な実態がある。一刻も早い対処が必要だ。当事者である教員の取り組みが重要になってきている。法改正がされた場合には、条例化阻止のため横のつながりが重要だ、と指摘しました。

報告と訴えのあと、畑野君枝衆議院議員が挨拶に立ち、衆議院文部科学委員会は労働問題に疎かったが、嶋崎量弁護士や工藤さんの参考人意見陳述の指摘で、議論の質が変わった。衆議院は通ってしまったが、参議院で阻止できるようにみんなで頑張っていこうと訴えました。

集会アピールの説明を市橋耕太さん(日本労働弁護団事務局次長)が行い、一年単位の変形労働時間制度の導入は、総量としての労働時間を削減する効果はなく、むしろ繁忙期の労働時間が増大し、過労死等のリスクが一層高まる懸念があること、労基法が要件とする労使協定ではなく当事者である教員の意向にかかわらず条例で公立学校の教員に最低基準を下回る働かせ方を強いるものであること、この制度の導入を許せば、今後他の労働者にも同様の規制緩和が波及する恐れがあること、変形労働時間制の導入に反対するとともに、教員の長時間労働の是正のために必須となる業務負担軽減や教員の増員への取り組みを強め、給特法の見直しを含めた抜本的な制度の改善を行うことを求める、との集会アピールが採択されました。

最後に棗一郎さん(日本労働弁護団闘争本部長)が、すべての労働者が等しく労働法制によって保護されるべきで、教員も労働時間の上限規制をして、残業をしたら払うべきものは払え。衆議院は通ってしまったが、参議院が残っている。阻止に向けて取り組もう、と閉会の挨拶をして、緊急集会が終わりました。

教員への変形労働時間制の導入は、集会アピールにもあるように、閑散期のない学校現場では見かけの残業時間が減るだけで、いっそうの長時間労働を教員に強いることになります。しかも、この制度が一旦導入されると、他の労働者にも規制緩和が波及する恐れがあります。
教員がゆとりをもって働くことができる労働環境をつくらないと、子どもたちに行き届いた教育をすることはできません。変形労働時間制の導入を撤回させることが何よりも重要です。


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