東京福祉大学留学生問題

2000年に開学した東京福祉大学は、2016年から3年間で、ベトナムやネパールなどからの留学生が約1400人も所在不明になっていることが明るみに出て、文部科学省も調査に乗り出しました。

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東京福祉大学ホームページより

創設者の中島恒雄氏を私が知ったのは、高校の進路指導部で専門学校担当をしていたときに、英語科の教員から、サンシャイン外語学院という各種学校から説明会の案内があったので一緒に行ってくれないか、と誘われ、サンシャイン60の一室にあった学校を訪ねたときですから、1980年頃のことです。説明会の参加者は私たち2人だけでした。恰幅のいい校長が中島氏でしたが、「サンシャインメソッド」という英会話の習得法を熱心に説明していたのを覚えています。

その後、この各種学校を母体に1984年、サンシャインビジネス社会福祉専門学校(現・東京保育福祉専門学校)を設立、理事長・校長となりました。高校教員向けの説明会を行う会場はサンシャイン60のビル内の教室でしたが、実際の校舎は東池袋の小さなビルが認可を受けた校舎でした。学校案内にはサンシャイン60を風景にした写真が載せられ、あたかも立派な学校のように見せかけていました。
多くの高校教員がこの学校は胡散臭いと感じたのは、教員向けの学校説明会のおりに、校長の挨拶がありましたが、司会の職員が、単に「校長」と紹介すれば済むことなのに、「フォーダム大学教育学大学院博士課程修了、教育学博士、ハーバー大学教育学大学院招聘学者、黒竜江大学高級顧問教授…」と、長々と肩書きを紹介したことです。肩書きをたくさん並べることでいかにも権威があるように示したかったのでしょうが、中島氏のワンマンな体質とともに、高校教員からは評判が悪かったのを覚えています。

介護福祉関係で何人かの生徒は進学しましたが、生徒に積極的に勧めることはしませんでした。中島氏とはその後も、東専各(東京都専修学校各種学校協会)の会合などでお目にかかったりしていたので、入学担当の職員からは福祉系の大学を作るという話も早くから聞いていましたし、2000年に群馬県の伊勢崎市に東京福祉大学が開学したときには祝賀式典に招待されたので、伊勢崎まで行ったこともあります。

2008年に複数の教職員に対する強制わいせつ罪で逮捕され、東京高裁で懲役2年の実刑判決で服役しましたが、この事件が報道されたときには、すべての学校経営の実権が中島氏に集中した、ワンマン体質の中で起きた事件だと思っていました。


急速に高齢社会を迎えた日本では、1987年に介護人員を養成するために社会福祉士及び介護福祉士法が施行され、また、社会福祉の民営化が進められ、2000年には介護福祉制度が発足し、企業も福祉に参入するようになりました。
福祉人材の需要を見込んで、1990年代に介護福祉士や社会福祉士を養成する大学・専門学校が全国各地に雨後の筍のように増えました。東京福祉大学もその1つでした。
急増する福祉系の大学・専門学校の良し悪しを高校側では、社会福祉士や精神保健福祉士などの国家試験の合格率や、介護福祉士の就職率などで見たため、大学・専門学校は国家試験合格率や就職で競い合うようになりました。こうして一時期、福祉系は人気の時代が作られました。私が勤務していた高校でも普通科でしたが、ホームヘルパー2級が取得できる福祉コースを作ったことがあります。

しかし、コムスン事件後、福祉の仕事は3Kだということが知られるようになるとともに、人気がなくなり、現在では福祉系の大学・専門学校は学生募集に苦しみ、定員割れをしている学校が大半です。また、募集を停止したり、学部や学科を廃止した学校も少なくありません。私が現在関係している福祉系の専門学校も、多摩地域では定評のある学校ですが、定員割れをしています。

日本介護福祉士養成施設協会が、介護福祉士の養成課程がある全国の大学や専門学校など365校について調査、集計したところ、2018年度の入学者数は6856人と5年連続で減少し、定員に対する割合(定員充足率)は44.6%にとどまったことがわかっています(「介護福祉士、養成学校への入学が最少、留学生は倍増、6分の1占める」『読売新聞』2018年9月12日朝刊)。そして、記事にもあるように、日本人学生が少した分、留学生が急増しており、地方の専門学校では大半が理由学生という学校も少なくありません。

これは、介護福祉士に限らず、社会福祉士や保育士などの養成課程でも程度の違いはあれ、同じような状況が見られます。とくに社会福祉士は国家試験が難しい割には、資格を取って就職しても、十分な収入が得られる保障がない実態もあります。
つまり社会福祉系の大学・専門学校に入学し、低賃金で長時間労働が実態の福祉業界に就職しようという学生は少なくなっているのです。

学生の集まらない学校では、経営が成り立たなくなるため、留学生を入学させています。留学生を確保するために、留学生や研究生をリクルートする日本語学校とも連携して学生を確保することが行われています。
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東京福祉大学の場合は、強制わいせつ罪で服役した元総長の中島氏が、服役後、再び学校運営に関与し、留学生ビジネスによって金儲けをしようとしたと考えられます。
現在、東京福祉大学との雇用関係をめぐって地位保全の訴訟を起こした田嶋清一氏が裁判資料として提出した
、中島氏と職員たちとの会合(2011年9月)の録音データによれば、 
「おれば2000人くらい集めようと思っている」
「研究生は10万円、レギュラーコースは20万円入学金を払ってくれれば、合格書、仮合格書を出しますよと」
と、中島氏は発言しています(「留学生1400人失踪の東京福祉大 「10万円払えば合格」発言録」NEWSポストセブン2019年3月26日、http://news.livedoor.com/article/detail/16219382/)。
また、このとき中島氏は、
「120億のお金が入るわけだよ、専門学校で。大学より大規模になっちゃう、もうかるの。難でそれをやらなんの。聞いてんだよ、おい」
「そいで4年間やりゃ、おまえ、いまの勝手な試算だけど、120億入るって」
「そしたら、ガバチョガバチョじゃん」
とも発言しています(「留学生大量失踪の東京福祉大、元教授が緊急会見」HARBOR BUSINESS Online 2019年4月10日、https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190410-00189873-hbolz-soci)

東京福祉大学の場合、受入に制限のない「研究生」を大量に受け入れ、所在不明になっても何ら対策を取らなかったため、問題が明るみに出たけですが、他の大学・専門学校にも同じような実態がないとは言えません。
とくに福祉系の場合は、福祉業界が低賃金、長時間労働という労働環境を改善する取り組みが弱く、政府も民間任せで、ほとんどと言ってよいくらい、改善に取り組んできませんでした。「社会福祉でまともに働き続けられる産業にする努力を福祉関係者も怠ってきたため、入学生が集まらず、福祉専門職の育成も低迷している」のが現状です(藤田孝典「留学生大量失踪事件の背後にある福祉系大学の乱立問題」Yahooニュース、2019年4月12日、https://news.yahoo.co.jp/byline/fujitatakanori/20190412-00122093/)。
その意味では、この問題は、藤田秀典さんの言われるように、東京福祉大学の事例を教訓に、福祉専門職養成の課題や深刻な学生不足の実態に目を向け、福祉業界の労働環境の改善を含めて、議論し解決していくことが早急に求められています。





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