文科省は教育内容に介入するな-前川氏の授業

前川喜平・前文部科学事務次官が名古屋市の中学校で講演したことに対し、文部科学省が名古屋市教育委員会に講演の趣旨や内容を問いただしていたことが発覚しました。

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『朝日新聞』2018年3月17日朝刊

電子メールを使った質問は、2度にわたり、その経緯や目的、内容などを細かく尋ね、その反応や講演録、録音データの提供まで求めていました。文科省が個別の学校の授業内容を調べるのは、違法ではなくとも、合理的根拠に乏しく、異様というほかありません。
 
前川氏の講演は今年2月、「総合的な学習の時間」の一環で行われたものです。当日、前川氏は不登校についての自身の経験や夜間中学校で教えている経験を交えて語り、「生涯学ぶ力をつけてほしい」と説いたものでした。

総合学習の目標は、変化の激しい社会に対応して自ら考える「生きる力」を育むことに置かれていますが、講演は、そうした趣旨に沿う内容のものでした。

ところが文科省の担当者は、前川氏が「天下り問題により辞職し、懲戒処分相当とされた」ことや、「在任中、出会い系バーの店を利用していたこと」が報道されたことを指摘したうえで、この事実を「校長はご認識されていたのでしょうか」「道徳教育が行われる学校の場に、どのような判断で依頼されたのか」などと問い、「具体的かつ詳細にご教示下さい」などとただしていました。

メールの文面には、前川氏の人格を非難する意図は明白であり、文科省にとって好ましからざる人物を講師としたことを問題視していることが分かります。文科省は「事実の確認」だと強調していますが、今回の講演は不適切なものだったと判断したからこそ問い合わせたわけであり、学校現場への圧力と受け取るのが自然です。

林芳正文科相は記者会見で、「確認のしかた、表現ぶりはもう少し慎重にやった方がよかった」と述べ、担当局長を注意したと説明しましたが、問い合わせ自体は「法令に基づいた行為だった」としており、今後も調査することは否定していません。これでは学校現場は、外部から講師を呼ぶたびに調査されかねないわけで、萎縮する可能性があります。国の顔色をうかがいながら授業する光景が現出しかねません。

個々の授業内容について、教育行政が調査を行うことは慎重であるべきで、過剰な介入は厳しく戒めるべきです。
文科省の担当者は口頭で、前川氏を招くのは「慎重な検討が必要だったのではないか」とも伝えたといわれています。自民党文科部会に所属する衆院議員が文科省に授業の経緯を照会していたことも報じられており、政治家の圧力で問合せをしたとすれば、「慎重な検討」をすべきだったのは文科省の方だといえます。また、「道徳教育が行われている学校で」というならば、文科省は加計学園の獣医学部新設問題をめぐり、「総理のご意向」などとする内閣府から文科省に伝えたとする文書の存在を当初は認めず、その存在を認める証言したのが前川氏であり、どちらが「道徳」的に正しかったかは明白であり、文科省に「道徳」云々を言う資格はありません。

教育の目的にかなう内容であれば、どのような人を招くかは学校の見識と裁量に委ねるべきで、もっと学校を信頼すべきです。

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