『部活動の不思議を語り合おう』

教員の長時間労働の大きな要因の一つを占める部活動指導の加重負担の問題が大きな問題となっています。そうした状況のもと、今年に入ってから部活動に関する著作が相次いで刊行されています。
中澤篤史『そろそろ、部活のこれからを話しませんか-未来のための部活講義-』(大月書店)、島沢優子『部活があぶない』(講談社)、内田良『ブラック部活動-子どもと先生の苦しみに向き合う-』(東洋館出版社)、そして今回紹介する長沼豊『部活動の不思議を語り合おう』(ひつじ書房)です。

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長沼さんは、現在は学習院大学の教授ですが、中学教員時代は部活大好き教員であったこともあり、まったく疑うことなく部活動顧問としての指導の重要性を学生たちに説いていました。しかし、部活問題対策プロジェクトの教員と出会い、部活に対する考え方と姿勢が変わったという。そして部活動改革に関わりようになりました。本書では、その経緯が詳しく書かれています。

本書は、島沢さんや内田さんの本と同じように、教員の長時間労働の実態を明らかにし、その中で部活動指導が大きな要因を占めていることを指摘していることは同じです。OECD、文部科学省、連合総研などの調査結果を基に、過労死ラインを超える残業時間となっていること、しかも教科指導よりも部活動指導の時間が長いこと、大幅な残業が常態化し、部活動の活動日数が多いほど勤務時間が長いことなど指摘されています。部活動加重負担の問題について、本書の特徴は、部活問題対策プロジェクトが文科省に顧問選択制に関する要望書を提出した署名の、自由記述を内容を紹介し、分析していることです。教員・教員経験者だけでなく、生徒・保護者・外部指導員などさまざまな声を紹介し、その加重負担の声をまとめると、「中学校の現状を考えると運動の経験など貴重ではあるが、実態は本当に大変で、土日も練習、残業が当たり前になっていてブラックだ」ということになり、解決策としては「教員の本来の仕事ではないのに、ボランティアが強制されている制度は考える必要があり、顧問の選択制は必要、外部の専門化を招くことで労働環境を改善し、地域のクラブなどでスポーツを行ってはどうか」となることを紹介していることです。

部活動の目的・目標をめぐっては、部活動は「教育活動」なのか、「選手育成」なのか、その両方なのか、このことが曖昧なままに選手育成の仕組みが出来上がっていること、学習指導要領における部活動の位置づけは、教育課程外の活動でありながら学校教育の一環として行うという曖昧さが、さまざまな矛盾を生んでいること、しかも全国大会に向けて勝利を目指すことが目的となり勝利至上主義への傾倒をもたらし、勝つためには際限なく時間をかけることが当たり前となって、教員の加重負担となっていることを明らかにし、部活動の教育的意義をもう一度問い直すことを指摘しています。

本書では、生徒、教員、保護者、校長、外部指導員、教員の家族、部活動を推進したい人々、文科省・教育委員会の、それぞれの立場からみた部活動に対する見方を紹介した上で、これらの人々が納得できる解決策はあるか、多角的に見ながら解きほぐさないと、簡単には解決しないとしています。そして、2016年に部活問題対策プロジェクトが文科省に顧問選択制に関する要望書と署名を提出したことをきっかけに、文科省がタスクフォースを立ち上げ、「教員の部活動における負担を大胆に軽減する」報告を発表、スポーツ庁が休養日の設定など運動部活動の適切な運営を図るようにとの通知を出したこと、部活動指導員を学校職員に位置づける法改正が行われたこと、各自治体の教育委員会でも部活動改革に動き出すなど、2016年は「部活動改革元年」になったと、その動きを紹介しています。

最後に本書では、教員の選択顧問制、生徒の全員加入制の廃止、学校から社会への全面移行、学習指導要領への記述、部活動指導員の定着の5つの視点から、部活動改革の可能性を検討しています。このうち生徒の部活全員加入制の廃止は学校で決断すればすぐできることですが、その他の項目はすぐに解決できない問題を含んでいることを指摘しています。そのうえで長沼さんは、持続可能な部活動へ向けた段階的な改革プログラムを提言しています。すなわち、休養日の設定→外部指導員の確保→顧問の選択制の導入→外部団体の組織化または企業支援の導入→勤務時間内の部活動+それ以外の活動の外部化(多治見方式)→部活動の学校教育からの切り離しと必修クラブの復活、という道筋です。

部活動改革の方向性については、中澤さん、島沢さん、内田さん、長沼さんと、大枠では教員の加重負担を軽減させる方向性はおなじではあっても、それぞれの個性が出ています。その中で長沼さんの提言は、さまざまな利害関係が絡み合っているなかで段階的に改革を進めようとするもので、参考にすべき点が多いと思っています。

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