学校・部活動における重大事件・事故から学ぶ研修会

スポーツ指導者を多数輩出してきた日本体育大学は11月7日から、部活動や体育の授業中の事故や体罰で子どもを亡くした遺族らを講師に招いた研修会を始めました。実際に起きた事例を学び、安全への意識を高めることが目的だということです。

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http://bylines.news.yahoo.co.jp/katoyoriko/20161215-00065403/

研修会を企画したのは、体育学部の南部さおり准教授。法医学が専門で、前任の横浜市立大学では柔道事故などを医学的に検証し、学校に指導や対応を提言してきました。その中で「指導者になる人たちが子どもの命を守るという視点で自分を律したり、合理的な判断をするための教育を受けていない」と、現状に対する危機感を強く感じたということです。
今年4月から日体大でスポーツ危機管理学の教員として、運動中の子どもが熱中症になったり、脳振とうを起こしたりしたときの危険性や、体罰、指導がきっかけで子どもが自殺に追い込まれる「指導死」などの問題を教えています。
研修会は、講義を受ける学生だけでなく、幅広く教職志望の学生らに聞いてもらおうと初めて企画されたもので、遺族ら8人に講師を依頼したとのこと。「先生の卵」を対象に遺族が講師を務める研修会は全国でも珍しいということです(「命守るのは指導者 部活中や体罰子どもの死亡ゼロへ」『東京新聞』2016年11月6日朝刊)。

11月7日の第1回目の研修会では、1999年に兵庫県川西市立中学校のラグビー部の練習中に、当時中学1年であった長男を熱中症で亡くした宮脇勝哉さん、2009年に大分県立竹田高校の剣道部の主将だった長男を熱中症と暴行で亡くした母親の工藤奈美さんが、どのようにして亡くなったのかを語りました。
工藤さんが長男の剣太さんが亡くなった夜、健太さんと花火大会に行く約束をしていた女性は、浴衣を着たまま何も知らずに待ち続け、剣太さんが待ち合わせの場所に現れなかった理由を、彼女は後で知ることになります。この話には、学生たちも男女を問わずすすり泣いていたということです。

12月12日の第2回目の研修会では、野球部、柔道部、バレーボール部の部活動中に子どもを亡くした4人の遺族が登壇しましたが、その中で草野とも子さんは、2003年、専修大学付属高校の1年であった娘の恵さんを、バレーボール部の夏合宿中に熱中症で亡くしました。ふらふらの状態のまま練習を続け、倒れても顧問は救急車をすぐに呼ぼうとせず、病院に運び込まれたときにはすでに心肺停止状態だったということです。その恵さんを指導していた顧問は、日体大出身でした。

この研修会をレポートした加藤順子さんは、これまで体育やスポーツに携わる人たちが被害や被害の実態を学ぼうとしなかった理由を、南部准教授の言として、次のように紹介しています。
「法学部の場合は、自分が加害者の側になる可能性はあまり考えないから抵抗なく事例の話を聞けるる。けれども、体育大学にいる人たちは、スポーツの指導をしていくと、自分が加害者になってしまう潜在的な可能性がある。事故や事件の話はタブーなのか、慢心なのか理由はわかりませんが、他人事に思えなくて聞きたくない、という思いがあるのではないでしょうか」
そして日体大の谷釜了正学長をはじめ教職員が、このような研修会に協力した背景には、2012年の大阪市立桜宮高校のバスケットボール部の部員が亡くなった体罰自殺事件の記憶があるとしています。自殺した男子生徒をはじめ部員たちに奉公や暴言を繰り返していた顧問は、日体大の卒業生でした。二度と、日体大の卒業生から加害者を出さない。そんな強い思いが、この研修会につながったとしています(加藤順子「卒業生を加害指導者にさせない!日体大が超本気で企画した「一生もの」の講義とは」http://bylines.news.yahoo.co.jp/katoyoriko/20161215-00065403/)。

私も日本体育大学の併設校で高校教員をしていましたが、部活動で生徒に体罰をしている場面を実際に見たことはないものの、何人かの教員が体罰をしているという噂はありました。指導死にいたるような事件は幸いにも在職中にはありませんでしたが、体罰が容認される雰囲気が学校にあると、いつ加害指導者を出してもおかしくはありません。私が管理職をしていたときには、折に触れて先生方には体罰をしないように注意をしました。

現在、ある大学の教職課程で「生徒指導及び進路指導」の授業を担当しています。その中で、体罰をテーマに取りあげています。そのときに学生たちにとったアンケートによると、高校時代に「自分が体罰や暴力を受けたことがあった」と回答した学生は25名中8名(32%)で、その部活動は野球部4名、サッカー部と陸上競技部が各2名でした。また、「他者が体罰や暴力を受けていたところを見たことがあった」と「実際に見たことはないが、体罰や暴力があるという噂を聞いたことがあった」が各2名でした。
実際に体罰や暴力を受けたことがあった学生が、どのように感じたか、自由記述からひろってみると、

・いくら起こったりしてもよいが、手をあげるのは卑怯だし、人を傷つけてしまうので、絶対にいけないと思う。
・暴力でなくとも充分生徒に指導ができるはずだと感じる。

と、批判的な受け止め方がある一方で、多少の体罰は容認する意見も少なくありませんでした。たとえば、

・理不尽な理由での体罰はいけないと思うが、悪いことを注意しても何回も続けるようであれば、仕方ないことだと思う。
・殴られるようなことをしたならば仕方ないが、正当な理由もなく体罰を与えるのは違うと思う。ある程度は必要なもの。
・自分が悪いことをして暴力を受けるのは納得できるが、理不尽な暴力に関しては納得できない。体罰や暴力は完全になくさなくてもいいと思う。

体罰を受けた経験がありながら、体罰を容認する受け止め方をする学生も少なくないことが分かります。学生たちの中には大学でも野球部やサッカー部に所属している学生も少なくありません。将来教職に就いて部活動などの指導者となったときに、体罰を行いかねない心配があります。
学生たちには体罰をなくすためにはどうしたらよいのか、グループ討論をさせて、考えさせましたが、加害指導者とならないように、今後も授業の中で取りあげていきたいと思っています。

日体大の第3回目の研修会は来年の1月30日に開かれます。このときにはぜひ聴きに行きたいと思っています。

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