『ブラックバイトに騙されるな!』を読む

日本キャリアデザイン学会 『キャリアデザインマガジン』第127号(2016年8月8日)の「私の読んだキャリアの1冊」に大内裕和さんの 『ブラックバイトに騙されるな!』(集英社クリエイト、2016年)を紹介しました。

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以下が、その記事です。

本書は、学生であることを尊重しないアルバイトのことを「ブラックバイト」と名づけた著者が、ブラックバイトを発見した経緯から、その社会的背景、学生がアルバイトにのめり込むメカニズム、ブラックバイトがもたらす影響、そして対処法までを幅広く論じたものである。

第1章「ブラックバイトってなんだ?」では、学生のアルバイトのために大学でのゼミ合宿ができなくなったことをきっかけに、ブラックバイトを発見し、その実態をフェイスブックに投稿すると大きな反響を呼び、社会問題化した経緯が興味深く描かれている。そして、厚生労働省が実施した調査では61%の学生が労働条件等で何らかのトラブルがあったと回答、ブラック企業対策プロジェクトが実施した調査では67%の学生が何らかの不当な扱いを受けた経験を持っていることが明らかにされている。

第2章「昔とまったく違う現代のバイト事情」では、多くの大人は「そんなひどいアルバイトなら、辞めればいいんじゃないか」という疑問を抱くが、現代の学生は親からの仕送りが減少し「自分で稼がなければ大学に通えない」という経済事情が潜んでおり、辞めたくても辞められない事情があること、また、正規労働者が減少する中で学生アルバイトや非正規労働者が基幹労働を担うようになっている実態を明らかにしている。

第3章「働くことを義務づけられて学生たち」では、学生たちがアルバイトをせざるをえない社会的背景を明らかにする。大学の学費が上昇する一方、子どもの教育費や仕送りを負担する親の所得減などから、親元からの学費援助に頼れない学生が増えていること、また、大学進学者が増えている背景には、日本型雇用慣行の解体にともなって若者の就職が著しく困難になり、特に高卒求人が減少し、将来正社員として働きたい若者は有利子の奨学金を借りてでも大学を出なければならなくなったことをあげている。そして学生にとってのアルバイトの位置づけが昔とは大きく変わり、「自分で自由に使えるお金」を稼ぐアルバイトはもはや過去のもので、低賃金にも関わらず基幹労働を担わされ、大学もレジャーランドから「ワーキングプアランド」へと移行していると指摘している。

第4章「なぜ学生たちは進んで劣悪な職場にはまり込むのか」では、ブラックバイトに引き込むためのマインドコントロールが、より社会的経験の浅い高校生にも及んでいること、また、アルバイトをしないと大学に通えない学生にとって、大学入学時にアルバイトを探す「バイ活」が必要不可欠になっており、雇用主側は買い手市場の中で自分たちに都合のよい学生のみを採用するため、ブラックバイトでも我慢してしまう風潮が学生たちに蔓延していること、そしてアルバイトを雇う企業は、運動部経験者を集めて模範的な職場を築かせたり、コミュニティー形成をあおって辞めにくくさせたり、きまじめな学生を「バイトリーダー」に任命して支配するなど、学生の職場への「組み込み」を強化している実態を明らかにしている。

第5章「若者を食いものにする貧困ビジネス」では、企業が基幹労働力として学生アルバイトに目をつけた理由を明らかにし、賃金を抑制しやすいこと、深夜・終夜・休日営業において学生が都合のよい労働力になったこと、学生がアルバイトを就活の準備として位置づけたため使いやすくなったことをあげている。その結果、ブラックバイトを経験した若者は、卒業後にブラック企業に入ったとしてもその働き方に疑問を感じることが困難になること、また、企業も経済的に窮した学生の弱みにつけ込んで大きな利益を上げる貧困ビジネスになっていることを告発する。

第6章「ブラックバイトは日本社会を壊す!?」では、ブラックバイトは、学生だけでなく、日本の社会全体にも悪影響を与えることを指摘している。低賃金の非正規雇用の増加は、正規雇用と非正規雇用の賃金格差を広げ、非正規労働者の未婚化・少子化、つまり「再生産不可能社会の到来」をもたらすだけでなく、ブラックバイトの広がりは、学生たちが集まることを難しくし、大学生にとって必要不可欠な仲間と時間とを奪い、知性の劣化、文化の衰退をもたらすとしている。

第7章「法律のプロが語る対応策はこれだ」では、ブラックバイト対策弁護団あいちの事務局長・久野由詠弁護士のアドバイスをもとに、ブラックバイト対策を紹介している。契約時の注意として、募集内容や労働条件を契約時に確認し、書面で交付してもらうこと、トラブル予防として、タイムカードやシフト表、準備、後片付けにかかった時間など労働時間を記録しておくこと、自爆営業や労働条件を無視したシフトの供用などは不当行為として拒否すること、その他、パワハラやセクハラは証拠を集め味方を作って行為をやめさせるように仕向けること、職場で慣例化している不当なルール等に対しては労働組合に相談し、団体交渉をして労働協約を定めることなどをアドバイスしている。

第8章「学生としての自分をもつと大切に」では、ブラックバイトにはまり込んだ若者に対して、大人たちは自分たちのアルバイト経験を基準に考えないこと、また、ブラックバイトにはまり込んだ友人に対し、それを憂慮する仲間としてやってほしいのは「あきらめずに説得する」ことを提案している。そしてブラックバイトを根絶するために、学費を引き下げるか、給付型奨学金の導入など現在の奨学金制度を改善するなど、学生の貧困や非正規雇用の拡大を見過ごしてきた政府や企業が、責任を持って取り組むべきであることを提言している。

ブラックバイトを発見し、その問題点を広く社会に発信してきた著者が、ブラックバイトの問題を総括的にまとめ、「ブラックバイトに騙されるな!」というメッセージが、1人でも多くの人に届くことを願って出版されたものである。
本書でもブラックバイト対策として、大学1年生がアルバイトを始める人が増える夏休み前までに、最低限の労働法の知識とブラックバイトに巻き込まれないための対処法を、ガイダンスなどで伝えることの重要性を指摘し、また、著者は、キャリア教育が職場への適応を重視するものが多く、不当な目にあったときの抵抗の要素はあまり重要視されてこなかったことを批判し、ブラックバイトへの対処は、キャリア教育全体を「適応」と「抵抗」のバランスの取れたものに組み替えていくことにつながることを指摘している。この点は重要な指摘だけに、キャリア教育に関心を持っている立場から言えば、大学や高校が、若者をブラックバイトから守るために「抵抗」の側面、すなわち労働法教育をキャリア教育の中にきちんと位置づけて取り組むべきことをもっと強調してもよかったのではないかと思われる。

本書が出される3か月前には今野晴貴氏の『ブラックバイト-学生が危ない』(岩波新書、2016年)が出版されている。ブラックバイトの問題を正しく理解し、対処していくために、ぜひ今野氏の著書とともに、本書を読んでほしいと思っている。

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