『求人詐欺』を読む

NPO法人POSSE代表で『ブラック企業』の著者としても知られる今野晴貴さんが、新たに『求人詐欺-内定後の落とし穴-』(幻冬舎、2016年)を出版しました。

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団塊世代がリタイアし、少子化が進む中で、人手不足の中で「騙して人を集めよう」とする企業が激増し、ハローワーク(職安)の求人、民間の求人サイトなどの求人を問わずいま、「求人詐欺」の被害が広がり、大きな社会問題となっています。
「求人詐欺」とは、求人票(募集要項)が実際の労働条件と異なる、あるいは重要な契約内容が十分に説明されていないという問題です。
若者が低賃金・長時間労働で使い捨てにされるブラック企業かどうかは、求人票の規制が緩く、ウソの労働条件を書いて募集することがまかり通っている現状では、求人票を見てもわからない実態があります。

本書には、求人詐欺の具体的な事例の紹介、危ない求人票の具体的な事例、求人票の見抜き方、求人詐欺やオワハラなどトラブルに遭った場合の対処法、労働者騙しが横行する業界の問題がわかりやすくまとめられています。崩れた日本型労働市場に求められる新ルールの提言も説得的です。
今野さんは、「きちんとした見分け方や対処法を知っていれば、詐欺企業の手口に対応することができる。本書を使い、詐欺企業に負けないノウハウを身につけてほしい」と、読者に伝えたいことを書かれていますが、就職活動をする学生はもとより、学生の未来に関わっている大学の教職員値企業の人事担当者にはぜひ読んで欲しい本だと思っています。

今野さんは、求人詐欺は、「求人票」と「契約書」は違うことを利用して、企業が自分たちに都合のよい条件を、最終的に労働者にのませるもので、①基本給や諸手当などの給与の仕組みや残業時間などを曖昧に書いている「あいまい求人型」と、②内定の段階ないし入社後に突然全く異なる労働条件の契約書に後からサインを迫る「話が違う契約強要型」があるといいます。「あいまい求人型」は求人票に不明な記述があるので、見分けやすいのですが、「契約強制型」は見分けられません。給与の中に残業代が入っているにもかかわらず、固定残業代制の存在自体を隠し、求人票に記載すらしない企業も多く、後から契約を結ばせることが横行しているからです。

労働者は労働市場において構造的に弱い立場に置かれ、日本の伝統的な社会事情もそれを助長しています。それゆえ、求人の情報開示を企業に義務づけることで、労働者が騙されないように守らなければなりません。ところが、国は求人詐欺を放置したまま、契約した人の自己責任にしています。
求人に関しては、職業安定法は、第5条の3で求人を行う際、仕事の内容、賃金、労働時間などを明示しなければならないとされ、第65条では「虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を呈示して、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者」には罰則が与えられるとされています。
しかし、この法律が適用されて罰則を受けた企業はなく、労働基準監督署は第65条については取り締まりの対象外としてしまっており、ハローワークも求人票と実際の労働条件に違いがあっても調査権限がなく、野放しになっているのが実態です。
求人詐欺が横行する中では、求職者は、よりよい待遇の企業を選ぶことができない「選択不能状態」になります。本来であれば、「よりよい企業に人が集まり、劣悪な企業は淘汰される」という労働市場の機能が働かなくてはならないのに、求人詐欺によって、それが妨害され、求職者が、よりよい企業を自由に選べないのが、日本の現実です。

今野さんは、崩れた日本型労働市場において求められ新ルールとして、労働者は、企業の確かな情報を求め、企業の労働条件を徹底的に比較して「企業を選ぶ文化」へ変わっていかなければならないことと、月給の内訳の表示など求人票の統一書式を定め、同じ基準で企業を比較できるように義務化すること、求人票と契約の内容に齟齬が生じないように、「この求人票よりも下回る契約は結びません」といったチェック欄を設けることを提言しています。

ブラック企業対策プロジェクトは、若者雇用促進法の公布を受け2月9日、「募集段階からの固定残業代の明示」と「職場情報の積極的な公開」に関し、厚生労働省に対して申入書を、さらに、日本経済団体連合会と全国求人情報協会に対して要望書を提出しています。
私は、このブラック企業対策プロジェクトのように、大学のキャリアセンターの教職員が、学生の未来を守るために、国大協や私大連・私大協などとも共同して、厚生労働省、財界、そして就職ナビなどを運営する企業などに対して、協議の場を設け、求人票の統一様式の制定、企業情報の公開を働きかけていくことが必要だと考えています。

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