広島中3「指導死」

教員の指導により肉体的・精神的に追い詰められて生徒が自殺する「指導死」は、全国で相次いで起きています。

画像
『東京新聞』2016年3月16日付朝刊

広島県府中町の町立府中緑ケ丘中学校3年の男子生徒が昨年12月、万引きをしたという謝った非行記録によって志望高校の専願受験が認められず、自殺するという痛ましい問題が起きました。

なぜこんなことが起きたのでしょうか。学校は調査報告書をまとめて謝罪しましたが、生徒の親は納得していません。

学校によると、13年10月、広島市内のコンビニ店で別の生徒2人が万引きをし、被害店舗から通報があり、対応した教員は、生徒指導の担当教員に連絡、この教員がパソコンに記録を入力する際、誤って男子生徒の名を記入。後日、生徒指導の会議で資料が配布され、誤りに気づいた教員が指摘しましたが、元データは修正されないままだったということです。
結果的に進路指導にも使われた資料で、固有名詞の誤りを放置した学校の責任は重いといわなければなりません。
また、問題行動があれば必ず指導記録が残されるはずですが、実際に万引きをした生徒に対して面談をした際の記録や、生徒に書かせる反省文なども作成されていなかったとされています(『朝日新聞』2016年3月10日付朝刊)。こうした記録があれば、自殺した生徒に非行の事実があったかどうかも確認できたはずです。

だが、この学校の大きな問題は生徒指導や進路指導のあり方にあったように感じられます。

生徒が万引きなどの過ちをした場合、担任や生徒指導の教員が生徒にしっかり寄り添って指導を徹底すれば、反省させることが十分可能であったように思います。指導記録も残っていないのが事実であるとすれば、果たしてそのような指導がなされていたのか、疑問に思わざるを得ません。

しかも担任が十分な確認をせず進路指導にあたったことも大きな問題です。
担任は、昨年11月から12月にかけて計5回、個人面談をし、万引きについて、生徒が明確に否定しなかったので事実確認ができたと認識したということです。しかし、その面談は廊下で立ったまま、1回5分程度、話しただけで、これが事実だとすれば、とても進路面談とはいえません。生徒の将来に関わる進路面談であれば、プライバシーにも配慮して、進路相談室などで面談をし、慎重に確認するのが普通です。しかも、その間に保護者を含めた三者面談も設定されていず、志望校への推薦はできないと通告しているのも問題です。
朝日新聞の社説が指摘しているように、担任が、「目の前の生徒を見ずに、記録を信用する。そんな本末転倒の対応が、重大な結果を招いた一因ではないか」というのは、その通りだと思います(『朝日新聞』2016年3月13日付朝刊、社説「広島中3自死 取り返せぬ学校の失態」)。

そして見逃せないのは、学校が、生徒が万引きなどの法に触れる行為をすれば入試で推薦しないという基準を設けていたことです。一度でも過ちがあればいくら頑張っても取り戻せないとすれば、それは指導とはいえません。生徒は過ちをしながらも、大人である教員や親、生徒たちとの関わりの中で過ちを克服し、成長していく、という立場にたって、指導していくことが大事だと思っています。
生徒にとって高校受験は自分の人生がかかっていると思うほどの重大事です。自殺した生徒は、「どうせ言っても先生は聞いてくれない」と親に話していたといいます。そこには、生徒と教員の間に信頼関係が築かれていなかったことが示されています。この学校において最も大事なことは、生徒と教員が信頼関係を築き、それをもとに生徒指導、進路指導を行っていくことだと思います。
府中町教育委員会は、第三者委員会を立ち上げるとのことですが、さらに調査を進め、問題の所在を徹底的に明らかにし、関係者が納得するかたちで再発防止に努める必要があります。

大学の教職課程で生徒指導、進路指導を学生たちに教えている立場として、学校教育で大切なのは何なのか、を改めて考えさせたいと思っています。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック