日本国憲法は日本語としておかしいか

作家の百田尚樹氏が、3月17日のTwitterで、日本国憲法の草案はGHQの法律の素人が1週間で作り上げた「占領基本法」だとし、また、憲法前文の「諸国民の公正と信義に信頼して」という一節を引用して、「そんな日本語ある?」と批判し、暗に日本国憲法の「改正」を主張しました。

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百田氏は、Twitterで、次のように、書いています。
「日本国憲法の草案は、GHQ(簡単に言うと日本占領軍の司令部)の職員たちが1週間で作ったもの。その職員たちも法律の素人ばかり。
40年後、西修氏が当時の職員を訪ねて話を聞いたとき、彼らは「君らはまだあれを使ってるのか!」と驚いたという。
そもそもは「占領基本法」だったのだ。」
「憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とあるが、こんな日本語ある?私はまがりなりにも作家だが、この文章の意味がわからない。」

このTwitterに対して作家の盛田隆二さんは、「↓次の見解も参照のこと」と記して、私がブログで書いたことのある、山本有三が憲法の口語化を建議して、憲法の前文と第9条までの口語化試案をつくり、それを下敷きに政府は憲改正案を作成したことを引用して、百田氏を批判しました。

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私のブログの文章は、次のようなものです。
「山本有三は、戦前から作家として平易な日本語の使用を説いていましたが、政府がマッカーサー原案を受け取り、GHQと調整したのち、1946年3月にカタカナ・文語体の「憲法改正草案大綱」が発表されると、三鷹国語研究所を母体に「国民の国語運動連盟」(代表・安藤正次)を結成し、憲法改正案をはじめ、すべての法令、公文書を口語体にすることを建議します。この建議は政府に受け入れられ、有三は、憲法前文と第9条までの口語化試案をつくり、政府は、有三の口語体を参考にしながら、1946年4月、口語体の憲法改正案を作成しました。
改憲派の人たちは、日本国憲法を占領軍が作った憲法だから、自主憲法を制定しないといけない、と言います。そして憲法は英語を翻訳したものに過ぎないと批判します。たとえば、2013年5月の衆議院憲法審査会で、日本維新の会の伊東信久議員は、「前文についてですが、そもそも現行憲法は、占領軍によって英文で起草され、その英文を日本語に翻訳したという歴史的経緯もあり、美しい日本語とはとても言えない状況です」と述べています。
憲法前文が「美しい日本語」かどうかは好みの問題もありますが、前文が「路傍の石」などで知られる作家の1人である山本有三の文章を下敷きにしていることは知らなかったようです。」(「『日本国憲法の初心-山本有三の「竹」を読む-』を読む」、2014年6月30日)

百田氏に限らず改憲派の人たちは、日本国憲法はGHQによって作られ、英語を翻訳したものに過ぎない、と単純に信じている人が多いのがわかります。
まさか盛田さんに私の文章を引用してもらえるとは思いもしませんでしたが、うれしいことです。

また、百田氏が、憲法前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という一節を引用して、自分も作家であるが、このような日本語はない、と書いたことに対しても、盛田さんは、3月19日のTwitterで、「憲法前文の「諸国民の公正と信義に信頼して」の格助詞「に」は、広辞苑によれば「赤いのに決めた」の「に」と同様に「対象を指定する用法」で」あるとし、「憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」とは、まさに「平和を愛する諸国民に信頼を寄せる」という意味で、「に」は「平和を愛する」を強調している」ものだとして、日本語として何ら問題はないことを指摘しています。
そして、「信義に信頼して」という「に」の用法を使った文章は、聖書(「彼に信頼する者は、失望させられることがない」ローマ人への手紙9章33節)や夏目漱石の「明暗」(「と同時に、全然その直覚に信頼する事のできない彼は、何とかしてこっちから吉川夫人を病院へ呼び寄せ」)にも見られるとして、ツイートしています。
百田氏は、自分は作家だと自慢しながら、文法も漱石の文章も知らないという「無知を表明」してしまったことが知られます。
文章を書くときには、例えTwitterにつぶやくにせよ、きちんと勉強してから書かないと、とんだ恥をかくことになります。自戒を込めて、百田氏と盛田さんのTwitterを読みました。

この記事へのコメント

2019年05月29日 17:04
漱石の文法が滅茶苦茶なのも有名です。
権威付けには使えませんよ。

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