『無業社会 働くことができない若者たちの未来』を読む

日本キャリアデザイン学会のメールマガジン『キャリアデザインマガジン』第116号(2014年8月1日)の「私が読んだキャリアの1冊」で、工藤啓・西田亮介『無業社会 働くことができない若者たちの未来』(朝日新聞出版、2014年)を紹介しました。

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「若者無業者」という言葉が注目を集めるようになったのは2005年頃からです。若者無業者については、メディアなどを通して、「働く意欲が、まったくない」「一日中、ゲームやPC、インターネットに興じている」といったイメージでとらえられ、その結果、「若者無業者は、自分とはまったく無関係で、批判されるべき存在である」という認識が広く普及しています。
この若年無業者の問題をいち早く取り上げ、若年無業者の就労支援を専門とするNPO法人「育て上げネット」を立ち上げた工藤啓氏と、研究者の立場から若年無業者に関する調査研究に協力した西田亮介氏が、若年無業者の支援現場での事例から若年無業者の実像にせまるとともに、若年無業者への誤解を解き、若年無業者の問題は、誰にでも起こりえる事象であり、解決すべき社会課題であるという問題意識から書かれたのが、この『無業社会』です。

第1章「なぜ、いま「若年無業者」について考えるべきなのか」では、1990年代後半から「ニート」「フリーター」「ひきこもり」など「怠惰な若者たち」の存在がメディアで取り上げられ、問題視されてきたことに対して、誰もが若年無業者になる可能性があるとし、「だれもが無業になりうる可能性があるにもかかわらず、無業状態から抜け出しにくい社会」を「無業社会」と定義しています。若者の16人に1人が無業の状態に置かれていることを指摘、日本では2000年まで若者は、無業になった場合、若者を対象にした公的支援の施策はなく、自己責任論をつきつけられてきた日本における若者支援事情を説明しています。
第2章「「働くことができない若者たち」の履歴書」では、大卒後、超有名企業に入社も憧れた「ビジョン」と乖離する現場で苦悩する若者、100通のお祈りメールに心を折られ、「申し訳なくて」面接を受けられない若者、難関資格を見事取得も面接が苦手で働けず、引きこもり生活の若者など、支援現場で出会った無業の若者たちの事例を紹介し、働くことが「当たり前」という考えの一方で、働ける・働き続けることが「当たり前」でなくなりつつあることを明らかにしています。
第3章「「働くことができない若者たち」への誤解」では、若年無業者について、「結局、自分のやりたい仕事を選んでいるだけでは?」とか「お金はなくても毎日自由に遊んだりしているのでは?」「親のすねをかじれるから働かないのでは?」といった偏ったイメージや誤解に対して、その誤解を解く作業をしています。内閣府「平成25年版 子ども・若者白書」によれば、「就業希望の若年無業者が求職活動をしていない理由」で多いのは「病気・けが」で30~40%、「希望する仕事がありそうにない」「急いで仕事に就く必要がない」は10%未満に過ぎないこと、『若年無業者白書』の生活の現状を見ると60%前後の若者が一日の大半を自宅で過ごしているが、それは、それ以外に選択肢がないこと、図書館を居場所にしているのも無料で読書もできるからであること、 『若年無業者白書』では77%が親と同居しているが、それは正社員でない限りは同居以外の選択ができない社会状況にあること、などを指摘しています。
第4章「「無業社会」はなぜ生まれたか?」では、 終身雇用と年功序列型賃金による日本的経営と、新卒一括採用の雇用習慣が1990年代になると揺らぎはじめ、正規社員への就労が悪化し、若年世代の失業率は全世代の失業率よりも高い水準になっていること、日本の社会システムでは、企業社会からの脱落が社会からもこぼれ落ちる一因となっていること、 また一度企業社会や労働市場からこぼれ落ちてしまうと再び参入することが難しい社会となっていることを明らかにしています。
第5章「「無業社会」と日本の将来」では、若年無業者の問題の放置は、社会保障費の無秩序な増大を引き起こすとし、その根本的な解決策としては、①現段階で困窮している人を緊急避難的に救済すること、②すでに若年無業者になってしまっている人に、早く就労できるように促していくこと、③また無業状態になってしまったとしても、再び労働市場に再参入できるような機会と仕組みを、社会のなかに埋め込んでいくこと、を提起しています。
第6章「若年無業者を支援する社会システムのあり方」では、具体的な現場の支援施策の提案として、「若年無業者支援の強力なビジョンの策定」「調査の拡充」「官民提携による、一体的な社会参加機会の創出」の3点を挙げています。たとえば、強力なビジョンの策定については、民主党政権時代に、「新しい公共」や社会的包摂の重要性を唱え、政治が積極的に非営利セクターの変革に取り組んだ結果、この問題に非営利セクターのみならず、新しい地域雇用の担い手として、また新しい生き方としてなど、多様な関心の目が向けられる契機となったことを指摘し、政治が再び強力なリーダーシップとビジョンの提示を行うことを求めています。
第7章「「誰もが無業になりうる社会」でNPOが果たす役割」では、無業社会のもとでNPOの果たす役割として、現場で若者に貢献するとともに、若年無業者問題の課題を社会化し、企業・行政・市民活動団体・教育機間・個人などさまざまなステイクホルダーに「自分事」として関心を持ち、関わってもらえるようにコミュニケーションを取っていくことの必要性を指摘しています。

本書は、「若年無業者に対する誤解を解き、実情を紐解きたい」との意図を持って出されたものですが、若年無業者の典型的イメージを塗り替え、「誰もが無業になりうる社会」になっていることを解き明かしています。
教育関係者の1人として、この問題を考えるならば、キャリア教育のあり方の再検討を迫られていると考えています。若者のおかれている無業社会のもとでは、大学進学をしても大学生の31%しか卒業3年後も正社員でいるストレーターはいない現状、奨学金で大学進学をしても卒業後は借金を抱えることになる現状があります。そのような現状のもとで、現在学校で圧倒的多数で行われているキャリア教育は、自己理解、現存する職業理解、進学・就職キャリアやライフキャリアを考えさせる教育ですが、それだけでは限界があり、労働法教育や消費者教育、金銭基礎教育などを取り入れていく必要があることを示しています。
無業の若者の実態をていねいに紐解いた本書は、社会的にも大きな意義を持った1冊となっています。ぜひ多くの方に読んでもらいたいと思っています。

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