『しあわせに働ける社会へ』を読む

竹信三恵子さん(和光大学)の『しあわせに働ける社会へ』(岩波ジュニア新書、2012年)を読みました。

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中学・高校生向けの本ですが、人々がしあわせに働ける社会を築くために、まず働く場を直視し、しあわせな働き方に向かって進む道筋を考えようとした、大人にも読んでほしい本だと思いました。

章立ては、次の通りです。
第1章 就職難は若者のせいなのか
第2章 正社員、大手企業なら安心なのか
第3章 まともな働き方をさぐる
第4章 落とし穴に備える自分づくり
第5章 しあわせに働ける仕組みづくり

第1章では、若者が正社員での就職が難しくなったのは、1995年の日経連「新時代の日本的経営」構想以降、スキルが足りない人やえり好みや覇気のない人が増えたというよりは、会社の人材活用の考え方が変わり、正社員として採用する数が限定されるようになったことを明らかにしています。
第2章では、大手企業の正社員になったとしても、それだけでは安心やしあわせを担保することにはならないこと、2000年以降は「名ばかり正社員」やブラック企業も増えていること、中小企業も視野に、働くことの何に喜びを感じているのか、それによって周囲に何を与えようとしているのか、まともな働き方ができるように社会のシステムのどこを変える必要があるのかを考えることの必要性が述べられています。
第3章では、長時間労働が当然視され、しかも、突然の解雇や過労死など思わぬ地雷がしかけられている日本の社会の中で、危機を乗り切り、少しでもまともな働き方をつくりだそうとさまざまな試みをしてきた人たちを紹介しています。
第4章では仕事をいきなり打ち切られたとき、居場所がなくなったとき、長時間労働で疲れ果てたとき、そのような落とし穴に備える自分づくりをしておくことの大切さを説いています。
第5章では、「しあわせに働ける仕組みづくり」をすすめるためには、働くことについてもっと知り、現状を改善するために、どんなルールの改善や新しいルールの制定がありうるのかを調べ、提案していくためのネットワークに参加して、声を上げていくことが必要であることを説いています。そして、過労死を防ぐ労働時間制度、登録型派遣制度の禁止、賃金差別を防ぐ仕組みづくり、生活給付付き職業訓練や給付型の公的奨学金制度の創設などを提言しています。

私が注目したのは、「労働教育とキャリア教育の両輪」を提起していることです。
現在、学校では、子どもたちに自分がどんな職業で身を立てていくかを考えさせ、見合った仕事力を養う「キャリア教育」が盛んになっているが、「仕事をする力」だけでは会社に押し込むことはできても、働き続けることは困難であるとし、働く者の権利や働くルール、相談機関、働くために必要な法律などについて学ぶ「労働教育」が必要であるとしていることです。私は、本田由紀さんのいう「適応」と「抵抗」の両方を学ぶことこそが、本来のキャリア教育だと考えていますが、竹信さんも同様の考え方を提起していることになります。
また、竹信さんは、キャリアを形成していくためには、人々の必要性を満たすためには、社会の仕組みを見抜いて、その変化を見通す力が必要であり、そのうえで資格やスキルをどう使っていけるかを考えること、さらに、「雪玉型」スキルの生かし方、仕事の広げ方を説いています。「雪玉型」とは、これまでの経験から新しい問題を発見し、その解決のためにすでに持っているスキルでは足りないものを補うために、新しいスキルや協力してくれる人を付け加えていくやり方で、雪玉を雪の上でころがしてどんどん大きくしていくイメージということですが、とても示唆に富む提言です。

ぜひ高校生や大学生をはじめ、多くの人に読んでもらいたい思っています。

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