生活保護-冷静な報道と議論を

お笑いコンビ「次長課長」の河本準一さんの母親が生活保護を受給していたことをめぐって、テレビのワイドショーは連日のように番組で取り上げ、河本さんだけでなく、生活保護が「不正受給」の温床となっているかのようなパッシングが行われています。

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(http://douga.nikkansports.com/entertainment/entertainment_106377.html/より)

「不正受給が多い」、「働くより生活保護をもらった方が得」といった論調の中で、本当に生活保護が必要とされている人々が、ますます生活保護を受けにくい状況となり、また、厳しい雇用情勢の中で就労努力をしている人や病気治療中の人、さまざまな事情から親族の援助を受けられず「孤立」を余儀なくされている高齢の人々など、多くの生活保護利用者の心と名誉を傷つけています。

現在、生活保護利用者が200万人を超えるまでに増えているのは、歴代自民党政権、とくに小泉内閣による新自由主義による構造改革により雇用が破壊され、また、少子高齢化の進展が深刻であるにもかかわらず、雇用保険や年金その他の社会保障制度が脆弱なままに置かれてきたことにあります。
生活保護受給者が増えたとはいっても、利用率は1.6%にすぎず、先進国(ドイツ9.7%、イギリス9.3%、フランス5.7%)に比べてむしろきわめて低いこと、「不正受給」は金額ベースで0.4%弱程度であるのに対して、生活保護利用資格のある人のうち現に利用している人の割合、つまり補足率は2、3割にすぎず、生活保護が本当に必要な人に行き渡っていないという大きな問題が置き去りにされています。

今回の河本さんをパッシングする中心となったのは自民党の片山さつき議員と世耕弘成議員ですが、かれらは自民党の「生活保護に関するプロジェクトチーム」の座長とメンバーです。自民党がことし4月に発表した生活保護に関する政策は、(1)生活保護給付基準の10%引き下げ、(2)自治体による医療機関の指定、重複処方の厳格なチェック、ジェネリック薬の使用義務の法制化などによる医療費の抑制、(3)食費や被服費などの生活扶助、住宅扶助、教育扶助等の現物給付化、(4)稼働層を対象とした生活保護期間の「有期制」の導入などを掲げています。その政策は、憲法第25条にもとづき、国民の生存権を保障する最後のセイフティーネットとしての生活保護制度を確立しようという視点を欠いた、財政抑制のみが先行した施策となっています。小泉政権下において、毎年2200億円の社会保障費削減を進め、その行き着く先が「生活保護の優等生」と言われた北九州市における3年連続の餓死事件の発生でした。雇用を破壊し、貧困を拡大させた政策を推進してきたことに対する反省は全く見られません。

さらに問題なのは、今回のきわめてレアケースな河本さんの問題をきっかけに、小宮山洋子厚生労働大臣が、「自民党の提起も踏まえて、どう引き下げていくのか議論したい」と述べ、さらに、受給者の親族が扶養できない場合、その理由を証明する義務を親族に課す法改正を検討する考えまで示していることです。

今年に入ってから全国各地で「餓死」や「孤立死」が相次いでいます。現在の経済状況下で、雇用や社会保障制度の現状の改善を図ることなく、放置したままで生活保護制度のみを切り詰めれば餓死者や自殺者が続発し、犯罪も増え社会不安を招くことは目に見えています。

『毎日新聞』5月29日付朝刊の社説「河本さん騒動 生活保護の本質誤るな」が、「不正や不適切な受給をなくしていくことは必要だ」としつつも、「現実は生活が困窮状態にあっても保護を受けられない人の方がはるかに多いことを忘れてはならない。実際に親族の扶養が期待できない状況でも「親族がいる」というだけで受給を認められない、親族に迷惑が及ぶのを恐れて自ら申請しないというケースは多い。扶養義務を厳格にするだけでは解決にはならないだろう。一部の不正や不適切な事例のために、本来は必要なのに手が届いていない人たちの存在を黙殺してはならない」と述べているのは当然、留意しなければならないことです。

小林節慶応大教授は、コラム「一刀両断」(「生活保護費の本質」、『大阪日日新聞』2012年5月29日付)において、「私たちは、まず何よりも、自分で働いて暮らす努力をし、それが困難であった場合には親子兄弟姉妹の間で融通し合い、その方途も尽きた場合初めて生活保護費の支給を申請してよい立場にある」と、建前を述べています。しかし、現実には、毎日新聞の社説が述べているような実態があります。そのことをふまえた議論が必要です。

 生活保護は国による「最後のセーフティーネット」です。生活保護制度が置かれている客観的な状況を把握し、生活保護利用者の実態に目を向け、その声に耳を傾けながら、冷静にあるべき方向性を議論することが求められています。テレビなどのマスメディアは、正確な情報にもとづく冷静な報道を心がけることが必要だと思っています。


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