大震災と教育

3月17日の午後、日本教育学会・「大震災と教育」特別課題研究グループ主催の公開シンポジウム「大震災と教育-被災3県からの”声”が、日本の教育に提起するもの-」が明治大学で行われ、参加してきました。

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このシンポジウムは、3・11の大地震・大津波そして原発過酷事故の被災はあまりに大きく、いまなお地域の作業・労働・生活・医療・福祉・教育などの諸領域に深刻な影響を与え続けており、そこには被災地・被災者の困難の現実に即した支援の課題が存在すると同時に、人間と自然の関係、地域づくりと園・学校の関係、保育者・教師の役割、自治体の役割、地域産業と子ども・学校の関係などの点で、その困難の深刻さと貴重な体験と実践など、日本の教育のあり方を考え直す多くの課題が提起されているという問題意識のもとに、日本教育学会が〈大震災と教育〉というテーマを特別課題研究として設定し、被災の確実な記録と、支援課題と、それが提起する教育への課題を総合的に研究する作業に取り組んでいる、その研究活動の一環として企画されたものです。

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シンポジウムは、3つの報告と、それをもとにフロアの参加者と意見交換を行うかたちで進められました。全国各地から研究者を中心に約70名の参加がありました。
報告 (1)「宮城県の教師・学校・地域の声から考えること」 上田孝俊さん(武庫川女子大学)
    (2)「岩手県・陸前高田での支援・調査を通して」 清水睦美さん(東京理科大学)
    (3)「原発・放射線被害と子ども・学校・地域」 境野健兒さん(福島大学)
 司会・進行 藤田和也さん(國學院大學)

上田さんの報告は、「惨事の渦中で、子どもたちの寄り添い手として誰がいて、不安を感じる子どもたちにどのようなはたらきかけをしていたのかということ」と「寄り添い手の状態によって、子どもたちの発達・成長やPTSDの度合いは左右されること」の2つを考える必要があるとし、仙台市・亘理町・石巻市などの小学校教師への聴き取りをもとに、3・11を子どもたちがどう受けとめ、教師が子どもたちや地域住民に関わったのかを報告されました。上田さんは、多くの子どもたちにとって教師や友だちが寄り添い手になったとし、教師論・学校論を考え直す視点として、(1)「安全」という施策的状況と、「安心」という関係性の中で育まれる感情の相違と両者の必要性、(2)子どもたちが惨事のなかを生きぬくために、「共に歩む」援助者の存在と教師の役割、(3)学校を核にして支援することの大事さ、交換の場としての〈学校〉の役割などを指摘されました。

清水さんの報告は、NPO法人「教育支援グループEd.ペンチャー」での支援活動に関わりながら、「学校再開」までで問われたこととして、学校再開について市教委は「無理しないで」という立場であったが、被災していない学校のことを考え校長会で再開のめどを4月20日と決めたが、そこには「被災当事者が、被災していない者を慮る構図」が見られたことを明らかにしました。また、「学校再開」以後の問い直しとして、被災していないものの日常を基準とした復旧・復興・支援という構図に対する「抵抗」が見られるようになったことを報告されました。

境野さんの報告は、福島原発事故と放射能汚染のもとで、放射性物質の数値を気にしつつ、また長期的に地域を離れる避難を伴いながら、子どもを守るための学校地域が直面している新たな課題を考える必要が求められているという問題意識から、福島での取り組みを紹介し、原発災害のもとでの子ども・教育に関する課題を明らかにしました。境野さんは、福島で起きていることとして、(1)子どもの被爆を避けるために県内外に約2万人弱の子どもが転校・園をしていること、(2)親の子どもの被曝と健康への不安が高くなり、避難したくても諸事情でできずに残っている場合もあり、家庭生活の変化、家族関係の変容、避難をめぐる罪悪感、避難における格差問題など多様な問題が生じていること、(3)原発災害の中で、走力など体力の低下、仮設校舎による特別教室や教材の不足、長時間通学の常態化など、異常な生活と学びのもとにおかれていること、浪江町の子どもの調査では、友だち関係の切断、隣近所などの関係が切れたことなどによるコミュニティの喪失、放射能・地震への不安、家庭の生活条件の変容などが見られること、日常性が失われたことで、日常生活のありがたさ、生活を支えている人と人の関係(家族の支え合い、親の仕事など)を見出したこと、などを紹介し、そのうえで、課題として、(1)放射線量の基準設定における子どもの基準への配慮、(2)安全を求めながら安心のある社会空間の創出(家族の暮らしと養育、子どもの遊び場)、(3)教育にとっての健康・福祉(安心さを支える健康診断や医療体制、食と農における基準)、(4)学校と親のゆるやかな関係を大切にする学校、(5)教育と災害では、身近にある自治体が果たす役割の大きさ、(6)地域復興とコミュニティとしての学校の位置の重要性、などを提起しましました。

それぞれの報告が、3・11がもたらした子どもと教育に関わる新しい論点・課題を提起しており、学会でどのように研究を深めていくのかが注目されます。

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