『就職とは何か』を読む

いま学生は「新就職氷河期」といわれる厳しい就職環境の中で就職活動を余儀なくされています。入学早々から「就活」への備えに振り回され、長く厳しい競争くぐり抜けて正社員になれても、働き過ぎが待っています。一方で、非正規雇用の身には否応なく貧困がついてくる状況があります。

関西大学の森岡孝二さんが書かれた『就職とは何か』(岩波新書、2011年)は、いま学生の就職活動はどうなっているかという問いに、雇用の現場はどうなっているかという問いを重ねて、就職とは何かを考え、〈まともな働き方〉の条件を明らかにしようとした本です。

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第1章「就職氷河期から新氷河期へ」では、長期不況と波状的リストラの中で過去最悪の内定率となっていること、長引く就活の中で就活うつや就活自殺が増えていること、若年者の失業率が高く非正規雇用労働者比率も高いこと、など最近の雇用に関わる動きを明らかにしています。
第2章「就活ビジネスとルールなき新卒採用」では、「リクナビ」を運営するリクルート、「マイナビ」を運営する毎日コミュニケーションズなどの就活ビジネスが栄える一方、就職活動の早期化と長期化が問題となっていること、その背景には定期採用(新規学卒一括採用)という日本独自の制度があること、早期化を是正するためには就職協定での是正が必要であることを説いています。
第3章「雇われて働くということ」では、雇用とは何かを考えつつ、労働組合の役割、若者の労働組合に関する意識の変化などを検討しています。
第4章「時間に縛られて働くということ」では、見せかけの労働時間は減っているが、正社員の働き過ぎにを問題にし、とくに最近いわれる「社会人基礎力」とは残業実行力のことかと疑問を投げかけ、若者に広がる過労死・過労自殺の実態と企業の働かせ方の問題点を明らかにしています。
第5章「就職に求められる力と働き方」では、大学が就職部からキャリアセンターになり、小・中学校からキャリア教育が始まったが、それがひたすら「適応力」を育てることにねらいがあることを明らかにしてうえで、企業が求める「コミュニケーション能力」などを重視していることを検討し、仕事に必要なのはハードのスキル(専門知識、英語力、情報処理能力など)とソフトのスキル(コミュニケーション能力、社会常識など)であるが、日本企業はソフトのスキルを重視して採用していることを明らかにしています。そして、キャリア教育が賢く生きるための労働知識を身につけさせることをしていないことを批判しています。
終章「〈まともな働き方〉を実現するために」では、〈まともな働き方〉の条件を、まともな賃金、まともな労働時間、まともな雇用、まともな社会保障を柱に整理し、とくに過重労働に有効な規制を行うべきであるとし、具体的施策として過労死防止基本法の制定を提起しています。

個人的にはキャリア教育の問題点に触れた第5章がもっとも共感することが多かったのですが、大学のキャリア教育でよく目標とされる「社会人基礎力」の問題点を指摘している第4章も、沢田健太さんが「行き過ぎた適応主義」『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』ソフトバンク新書、2011年)と指摘した点と共通するもので、興味深く読むことができました。

大学生だけでなく、キャリア教育に関わる教育関係者をはじめ、働いている若者、採用側の企業関係者など、多くの人に読んでもらいたいと思っています。

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