「生まれてくる生命を支える社会を創る」

雑誌『世界』2011年5月号は東日本大震災・原発災害の特別編集号を組んでいます。

画像

画像
雑誌『世界』2011年5月号より

その中で私が教えられた論考は、中野佳裕さん(国際基督教大学)の「生まれてくる生命を支える社会を創る」です。
中野さんは、今回の震災であらわになった日本社会の姿を「むなしさ」と表現しています。
その理由を2つあげています。1つは、「日本が世界で最初の、そして唯一の原爆投下を受けた国、すなわち核エネルギーの生態学的・医学的・社会的・文化的影響を最初に経験した国」であり、「核廃絶のための歴史的・倫理的指導力を発揮すべき国が、スリーマイル島、チェルノブイリ原発事故の教訓にもかかわらず、国民経済の発展の大義のために原子力エネルギー政策を保持してきた歴史が露呈され」たこと。もう1つは、高度経済成長期に起こった水俣公害に関連するもので、「胎児性水俣病は、経済活動による環境汚染が、現在生きる人々の生命を奪うだけでなく、これから生まれてくる生命の可能性にも影響を与えることを例証している」が、福島原発事故を通じた環境汚染によって、生命の安全が数世代にわたって奪われる危険が高まっている」こと。つまり、「原爆投下、チェルノブイリ事故、そして水俣病にいたるまで、戦後世界の歴史的経験からこの社会が何も学んでこなかった事実が、原発事故に始まる一連の事象に透けて見えるからである」としています。
日本はアメリカに次ぐ経済力を誇る国になり、お金を出せば生活必需品から不要な贅沢品まで、あらゆる商品を手に入れることができるようになったが、しかし、「いかにしてより豊かに、より快適に暮らしていくか」ということに没頭するあまり、「生まれてくる生命をどのように守っていくか」ということを置き去りにしてきたのではないか。「これから生まれてくる生命の未だ見ぬ姿を見つめ、彼ら・彼女らの声にならぬ声に耳を傾けることで望ましい社会を創ろうとする努力が、これまでの日本において欠けていた」のではないか、と問うています。

生命の再生産を保障する社会を創ること、生命が生まれる力そのものをみんなで支えるという観点から経済、政治、そして福祉を立て直すこと提言されている中野さんの論考は、原発事故はもとより、非正規雇用の増大、若年層の就職難・失業、年金制度の破綻など、生きるためのさまざまな条件が危うくなっている現在、多くの示唆に富むものといえます。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック