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<<   作成日時 : 2017/08/08 11:17   >>

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子どもの安全の観点から柔道事故や組み体操などの問題など、学校生活上のリスクを分析してきた内田良さん(名古屋大学准教授)の新著『ブラック部活動−子どもと先生の苦しみに向き合う』(東洋館出版社、2017年)を読みました。

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内田さんは、部活動は、(1)制度上「グレーゾーン」に位置しているということ、(2)「自主的な活動」であり、自主的なのに強制され、自主的だから加熱しているということ、(3)「評価」の対象とされたことで加熱が進んだということ、(4)「居場所」の論理と「競争」の論理の両面から検討されるべきであるということ、の4点をおさえ、できる限りエビデンスをもとにブラック部活動の実情を描きつつ、部活動をよりよいものにするために、改善に向けた提案をしています。

第1章「「グレーゾーン」を見える化する」では、部活動は教育課程がでありながらも、学校教育と密接な関係を持ちながら維持されていることから、「グレーゾーン」に位置づけられるが、グレーゾーンであるがゆえに、学校教育の一環であることを理由にして、生徒にも教員にも「強制」がはたらく、「自主的なのに強制される」と。そして、グレーゾーンだからこそ、活動に対する管理が行き届かずに、「過熱」が止まらない、「自主的だから過熱する」現状を問題視します。
第2章「自主的だから過熱する」では、学校がトップアスリートの養成機関かと思わせるほどに、学校内外に部活動の成果がアピールされていること、生徒も教員も休養日が必要だと思っていながら、現実には土日を含め毎日のように活動していること、子どもの教育にとって勝敗を競う対外試合の拡大は望ましくないという考え方から高校では全国大会は年1回程度、中学校や小学校は「ない」時代が続いたが、1964年の東京オリンピック開催の中で対外試合は緩和されていったこと、1980年代の臨教審答申で「個性重視の原則」が打ち出されて以降、大学入試や高校入試で多様な能力による入学を可能とする推薦入試の規模が拡大し、部活動が「評価」の対象となり、部活動で競争に勝ち抜くことが学校生活において重要な意味を持つようになり、部活動が過熱していったことを明らかにしています。
第3章「自主的なのに強制される」では、部活動は「自主的な活動」であるが、教員は自分の意思に関係なく顧問を担当するのが当たり前とされ、全員顧問制をとっている中学校の割合は87.5%(2016年度)にのぼっていること、生徒も生徒全員の強制加入となっている場合が少なくなく、ほとんどの中高生が部活動に所属していること、部活動には、放課後にスポーツや文化活動の機会が生徒に低額で保障する機会が与えられる「居場所」の論理と、強化選手の育成や試合・コンクールに勝つことを優先する「競争」の論理とがあり、居場所の論理が衰退し、競争の論理が優勢となり、部活動が過熱していったことを明らかにしています。
第4章「強いられる「全員顧問」の苦しみ」では、部活動は教員の本務ではないにも関わらず、全教員が顧問を担当させられる学校が多いこと、この全員顧問制度の拡大の背景には教員の多忙化と部活動の過熱化、生徒の安全に対する関心の高まり、減らない(減らせない)部活動数があること、その結果、部活動で教員が「評価」されるようになり、教員採用試験でも部活動の経験が評価されるようになったこと、教員は平日は夜遅くまで、土日も練習や試合などで部活動指導に当たり、疲弊する事態になっていることを明らかにしています。
第5章「働き方改革」では、部活動の指導は、教員の長時間労働や土日出勤の主要因の1つではあるものの、その問題性を「見える化」するためには、部活動を超えた「教員の働き方」として認識する必要があるとし、教員の勤務全体のあり方を検討しています。文部科学省の2016年度教員勤務実態調査(2017年)は、学校現場の過酷な勤務状況を明らかにしたが、勤務時間が週60時間以上の教員は、小学校で33.5%、中学校で57.7%、週65時間以上は中学校で40.7%にのぼり、多くの教員が「過労死ライン」の「月80時間」「月100時間」を超えていること、長時間労働の中で休憩時間は10分程度であること、教員には夏休みがあるといわれるが、夏休みも勤務日であり、夏休みには有給休暇や代休を取りやすいものの、夏休みも部活動等があり、残業、土日出勤の教員も多いこと、教員の長時間労働が引き起こされる背景には、出退勤など教員の日常の勤務が管理されていないことがあるが、その諸悪の根源には「特給法」があること、また、長時間労働に歯止めが利かないことの背景には、長時間の労働を「献身的」「教育熱心」と美化する教員文化があることを明らかにしています。
第6章「素人が顧問」では、教員が部活動の顧問を強制的に担当させられる全員顧問制度のもとでは、競技経験のない教員が顧問となり、指導法を自分で研究したり、土日も指導しなければならず、負担感が増大し、追い詰められていくことを何人かの事例をもとに明らかにしています。
第7章「過剰な練習、事故、暴力」では、スポーツ庁が実施した中学校の運動部活動の調査(2016年)をもとに、都道府県ごとに休養日の設定や部活動時間の実態を明らかにし、必ず休養日を設けるなど活動に規制をかける必要性を提起し、また、文部科学省が部活動改革の1つとして部活動の外部指導者を学校職員として位置づけたことについて、学校との連携が難しいことや練習量などで生徒の負荷を増大させる危険性があるなど、課題があること、指導方法も事故防止方法もわからない運動部顧問にとって、活動中の重大事故は、教員にも生徒にも多大の不利益を与えること、顧問による身体的暴力(体罰)は、指導の一環として理解され、懲戒免職になるケースはなく、生徒は暴力から守られない現状があることを明らかにしています。
第8章「先生たちが立ち上がった!」では、教員は部活動を指導してこそ一人前、さらに土日を厭わず指導する顧問は、生徒思いのすばらしい先生だと評価されるという教員文化、職員室の当たり前に対して、部活動の抜本的な改革を目指しネット上で運動を始めた中学校教員等6名による「部活問題対策プロジェクト」の活動を紹介しています。真由子氏をはじめ、
第8章「先生たちが立ち上がった!」では、教員は部活動を指導してこそ一人前、さらには土日を厭わず指導する顧問は、生徒思いのすばらしい先生だと評価される教員文化、職員室の当たり前に対して、部活動の抜本的な改革を目指し、インターネット上で運動を開始した中学校教員等6名による「部活問題対策プロジェクト」の活動を紹介しています。部活動顧問の負担について、ネット上で個々別々に訴えていた教員が連携して、既存の組合組織の枠を超えて、改革のうねりを生み出していること、教員の顧問強制や加重負担の問題、生徒の直面する体罰、強制入部、長時間練習などを問題にし、部活動の負の側面が「教師、生徒、保護者、教師の家族などにさまざまな不幸をもたらしている」とし、部活動顧問を「する・しないの選択」、部活動への入部を「する・しないの選択」を求めるネット署名を行っていること、学校内部からの勇気ある問題提起に耳を傾けることの必要性を説いています。
第9章「未来展望図」では、部活問題対策プロジェクトとは別に、部活動問題の改善、顧問の負担軽減に向けた経験と戦略の共有を目指して誕生した「部活改革ネットワーク」の活動を紹介するとともに、部活動の改革案として、「居場所」の論理をよりどころにした部活動の「総量規制」が必要であることを提起しています。改革案は、「ゆとり部活動」への転換を図り、「練習に充てる時間数や日数の削減」では活動日は週3日とし、「全国大会への不参加及び参加大会の精選」をするとし、「県大会上位、全国大会出場」を目指す生徒は、民間のクラブに通うという選択をとり、「居場所」と「競争」の明確な役割分担を提起しています。
そして最後に、座談会「部活動のリアル」では、部活問題対策プロジェクトのメンバーである「真由子」さん、「藤野悠介」さんと内田さんとの座談会の記録が収録されています。

内田さんは、部活動の現状を改善するために活動時間の総量規制と教員も生徒も参加を任意にする「ゆとり部活動」への転換を図ることを提起していますが、教員が部活動の顧問担当し指導するのは当然だという「職員室の当たり前」=学校文化を変えていくことはそう簡単ではありません。

この本の中で内田さんも紹介している「部活改革ネットワーク」「部活問題対策プロジェクト」については、朝日新聞でも報じられるようになりました。「プロジェクト」のメンバーである小阪成洋さんは、記事の中で、「学校は同調圧力が強く、部活への疑問を口にするのはタブー」となっているとし、ネットでの発信、シールでの意思表示は「少数でもつながり、意思を示す手段になる」と語っています(『朝日新聞』2017年8月7日朝刊)。

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『朝日新聞』2017年8月7日朝刊

私が高校に在職していたときも、全員顧問制になっており、部活の顧問を担当することに疑問を持ったことはなく、組合としても部活動を取りあげた記憶はありません。夏休みなどの長期休業中も勤務日とすることに対して、研修日の確保を図ったり、平日でも放課後特に勤務がないときは17時15分の勤務時間前に退勤してもよいとする申し合わせをしたりするなど、教員の負担軽減には取り組みましたが。
また、生徒、保護者、教員の三者で話し合う場としての「三者協議会」でも、部活動をテーマにしたことはありませんでした。

木村草太さん(首都大学東京教授)は、内田さんの本の感想の中で、「自分自身の権利も守れない教員が、生徒の権利を正しく認識し、それを尊重できるだろうか。生徒の教育を受ける権利に応え、適切な学習環境を提供できるだろうか。体罰やハラスメントとなる指導を止められるだろうか。/大切な子どもたちを預かる教員には、権利の主張はわがままではなく、人が人らしく生きるために必須であることを理解してほしい。子どもの権利のためにも、生徒自身の手によって、ブラック部活動の問題を一刻も早く解決しなくてはならない」と述べています(「木村草太の憲法の新手(61) 「ブラック部活動」法の支配徹底されぬ学校」『沖縄タイムスプラス』2017年8月7日、http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/123810)。

木村さんの言うことはその通りですが、そのためには、文部科学省や教育委員会が教員の「働き方改革」に取り組み、教員の増加、「特給法」の見直しなど教員の超多忙化の問題に取り組むとともに、部活動に起因する超過勤務の是正について、議論をタブーとしないで、各学校で早急に、教職員組合をはじめ、生徒、保護者、教員が一緒になって議論を始め、解決策を模索することが何よりも必要だと思っています。


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